2024年5月14日(火)

バイデンのアメリカ

2022年5月18日

 実際、わが国政府は、70年代から、核兵器を搭載した米軍艦船の横須賀基地などへの寄港さえ拒否し続けてきたが、筆者が国防総省高官を取材で訪れるたびに「わが艦船が日本に寄港する際に、核を国外のどこかに積み下ろせというのなら、一体何のための〝核の傘〟というのか」と愚痴をこぼされることもしばしばだった。

 また、現実問題として、米軍にとってもし、核搭載艦の寄港も含め、日本への核持ち込みができないとすれば、最も近いところで米領グアム配備の核に依存せざるを得なくなる。しかし、これでは距離にして東京まで2500キロメートルもあり、〝核の傘〟で日本本土を守ることを難しくしてしまっている。

 その一方で、日本側が米国に「拡大抑止」を期待し続けるとすれば、問題をより複雑にする。

日本でも飛び交う指摘

 さすがに、わが国でも、防衛政策に直接かかわってきた政府関係者の間から、その矛盾を指摘する声が上がり始めた。

 石破茂元防衛相は、去る2017年当時、「中央公論」11月号に論文を寄稿し、「わが国を取り巻く国際環境が一段と厳しくなってきた」として、「非核三原則」のうちのとくに「持ち込ませず」について、「在日米軍基地への配備」や日本側との「核共同保有」の可能性について議論すべき時が来た、と提唱し、注目された。

 加藤良三元駐米大使も、外務省発行の定期刊行誌「外交」に提言を掲載。その中で、「非核三原則」の見直しを含めた議論をタブー視すること自体、自由な民主主義国にとってふさわしいことではないと批判した上で、とくに三つ目の原則である「持ち込ませず」に代わる新たな「第三の原則」を提唱し、「唯一被爆国であり、非核保有国であるわが国が核兵器攻撃にさらされるべきではなく、それが許されるべきではない」との表現を盛り込むべきだ、と論じた。

 一方、今年に入り、安倍晋三元首相ら一部有力者の間で、日本の安全保障を確かなものとするために、米軍核を共有すべきだとする「核シェアリング(共有)」論が浮上、与野党間で大きな議論が巻き起こりつつある。ロシアによるウクライナ侵攻でプーチン大統領が自国を「核大国」と呼び、核の脅威を改めて広めたことや、北朝鮮による各種ミサイル発射実験が相次いでいることも、背景にある。

 しかし、ドイツなどと異なり、被爆経験国であるわが国の場合、「共有」とはいえ、日本が核兵器を持つことについては、依然として国民の広い層で、反発や抵抗感が根強く存在することも事実だろう。そして、国民の支持を度外視して政府が独断で「核共有」に踏み切ることなどあり得ない。

 従って、わが国が今、求められるのは、こうした大胆な方針転換ではなく、切迫した脅威に真摯に向き合うために、矛盾が露呈し始めた「非核三原則」の早急な見直しについて地に着いた議論を深めることではないだろうか。

 
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