2024年4月24日(水)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2022年5月29日

世界の水産物需給予測と為替変動の影響

 国連食糧農業機関(FAO)発表の世界漁業統計によると、食用の水産物(19年)の漁獲量は約1億4000万トン(天然+養殖)です。また一人当たりの消費量は年20.3キログラムです。

 現在(22年)の世界人口は79億5000万人。50年の人口は97億人に増加することが予想されています。仮に50年の水産物の消費量予想を計算しますと、97億人×20.3キログラム=約2億トンとなります。2億トン-1.4億トン=約6000万トンと、約6000万トンもの水産物が不足するという計算になります。

 世界第10位(2019年、FAO)の日本の漁獲量(天然+養殖)は約400万トンに過ぎません。従って、この数字がどれだけ大きいか、そしてこの先どんどん不足傾向となることがお分かりになるかと思います。

 「円安」は水産物の輸入価格を上昇させる要因に他なりません。例えばキロ価格が10ドルであった場合、1ドルが100円であれば輸入価格は1000円ですが、これが1ドル130円となれば1300円となって3割上がります。

 一方で、海外から日本を見た場合、ドル価格での販売は上記の通りですが、ドルではなく円で輸出するケースも多くあります。その場合キロ1000円で販売する場合、売手の手取り価格は、1ドル100円の場合は10ドルですが、円安が進んで130円になってしまうと8ドル弱(7.69ドル)に減ってしまいます。このため、ドル価格での同じ手取りを維持するには販売価格を1300円に上げる必要があります。

 円安は輸入側に取ってコスト増。輸出側は手取り金額を同じにするために円建てでの値上げが必要となります。つまり、輸入国の円安は、輸出・輸入側双方に取って貿易をネガティブにさせる要因なのです。

日本に魚を安く売ってくる国などない

 「サバ」「アジ」「イカ」を始め、日本には現在では他の国では見られない「輸入割当制度」という、一定以上の数量や金額での輸入を規制する制度があります。この制度は「国内産業の保護」を目的としているそうです。

 しかしながら、世界中を見渡しても、日本に魚を安く輸出してくれる国など存在しません。それどころか、輸入し易くして国際競争力を高めることが必要ではないでしょうか?

TPPでの的外れの影響額試算

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は16年に最初の署名がされた経済連携協定です。当初安価な水産物が輸入されて、国内漁業に大きな打撃が与えられると報道され、「反対!」と騒がれました。

 しかしながら貿易をしている立場からすれば、反対論には根拠がない幻想が掲げられていたのです。例を挙げてみます。

 10年にTPPによる水産物への影響額は、4200億円(農林水産省)と試算されました。その中でサバは生産量減少率33%で生産減少額は240億円という試算でした。「今回の試算の考え方」では「ノルウェーサバなど国産品と品質的に同等の生鮮食用は置き変わり、安価で貿易に適さない加工向けは残る」と意味不明な説明でした。

 大騒ぎのあと、再度行われた影響額の試算は、約174億~346億円と10分の1以下。サバについては6億~11億円と20分の1以下。そもそもノルウェーはTPPに入っておらず、またTPP参加国で、日本のサバ漁業に影響を与える輸出国などありませんでした。

 無責任で、大げさな桁外れの試算が後で訂正されても、誰も検証も謝罪もせず。根拠を出してしまう人たちが問題ですが、水産業界ではこのような無責任発言が多過ぎます。さらにPDCAが行われないので、誰も反省していませんし責任も取りません。


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