日本の分野別電力消費量は図-2の通りだが、35%を占める製造業の1人当たり人件費と電気料金(図-3)を見ると、鉄鋼、化学など電気料金の負担が大きい産業がある。すでに料金上昇の影響を受けているが、今後影響は多くの産業に広がる。
そんな中、電力供給を不安定化させ、さらに電気料金を上昇させる制度の導入を東京都が検討している。
屋根置き太陽光パネル義務化は最悪の政策
東京都は温暖化対策を進め、省エネを進めるとして、屋根置き太陽光パネルを新設住宅に義務化させる政策を検討している。電力供給と電力価格には悪影響しか与えないし、温暖化対策としても費用対効果が悪い手法だ。
2020年から新設住宅への太陽光パネル設置を義務化したカリフォルニア州で起こったことを見れば、馬鹿げた政策とよく分かる。
カリフォルニア州の導入前に、カリフォルニア大学バークレー校ビジネススクールのボレンスタイン教授は、州政府に書簡を送り「大規模太陽光、あるいは風力発電設備などと比較すれば、発電コストは2倍から6倍になる」と指摘し、非効率な政策と批判していた。温暖化対策として再エネ導入を進めたカリフォルニア州の電気料金は、全米平均を上回るスピードで上昇しているが、制度が始まった20年からは、さらに上昇の速度が増している(図-4)。
教授は、制度導入後もコストの分析を行い、余剰電力の買い取り価格が高く設定されているため、パネルを設置していない家庭は年間75ドル(約9500円)の余分な負担を行っていると指摘した。
さらに、太陽光発電設備を設置した家庭は、余剰電力の販売で送電線を利用しているが、その費用を負担することはない。多くの家庭で太陽光発電設備が設置されれば、設置していない家庭が負担する送電に関わる費用はますます増える。
米エネルギー省は、太陽光パネルを設置している世帯の19年の収入の中央値は11万3000ドル(1410万円)、持ち家を持つ世帯に収入の中央値は7万4000ドル(930万円)、全世帯収入の中央値は6万4000ドル(800万円)と発表している。相対的に収入が低い世帯が、送電に関わる費用を多く負担していることになる。
コストが高い以上、温暖化対策としても費用対効果が悪い。カリフォルニア州では、省エネ設備導入の方が、はるかに費用対効果が高い温暖化対策との指摘も行われた。再エネが増えれば、火力発電設備が減少し、停電の危機を招くのも日本と同じだ。