20年8月、熱波に襲われたカリフォルニア州は日没の後に停電を経験することになった。日没と共に太陽光発電設備の発電量はなくなったが、十分な火力発電設備が不足していたためだった。
再エネ導入量が増えていた(図-5)カリフォルナニア州では、発電量が減少していた天然ガス火力の閉鎖を進めていた。停電後、州公共事業委員会は、電力会社に対し天然ガス火力閉鎖の延期を指示することになった。
供給を不安定化させ料金を上昇させる
カリフォルニア州の屋根置き太陽光発電政策は、今年半ばから大幅な見直しを受ける。余剰電力の買い取り価格は引き下げられる。さらに、設備を設置している家庭は、送電線利用料として毎月75ドル(9400円)の支払いが要求される。
日本の固定価格買い取り制度(FIT)に基づく、家庭での太陽光発電設備(10kW未満)からの22年度の買い取り価格は、1kWh当たり17円。入札制度も利用される事業用設備の10円から11円よりはるかに高い。
22年度の再エネ賦課金額は1kWh当たり3.45円。標準的な家庭の再エネ賦課金額の負担額は年間1万円を超えている。東京都が屋根置き太陽光パネルの設置政策を進めると、全国の消費者が負担増に見舞われることになる。
再エネが増えれば、火力発電設備の利用率が下がり設備の休廃止が増える。いざという時に発電する設備がなく停電危機が発生する。東京都が導入する政策が、東京電力管内の停電危機を増やすことになり、東電管内の他県の消費者に迷惑をかけることになる。
欧州連合(EU)でも欧州委員会が、脱ロシア化石燃料のため、再エネの中では導入に時間がかからない太陽光発電設備の大量導入を打ち出した。25年から新設ビル、29年からは新設住宅に設置を義務付ける案も提示されている。EUと日本との大きな違いは、EUでは送電網が連携しておりバックアップ電源が広く利用できることだ。EUでは中国からのパネル輸入を避けるため域内での製造も提案されている。
日本で設置される太陽光パネルの9割以上は輸入されている。大半は中国製だ。今、世界の太陽光モジュール生産企業上位10社のうち、8社は中国企業だ。残り2社は、韓国と米国企業。東京都が住宅へのパネル設置を義務化すれば、喜ぶのは中国企業だけと言ってもよい。
なんのための政策なのか。政策で何を達成したいのか。東京都は企業活動を支援し、市民の生活を安定させる政策を考えるべきだ。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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