2022年11月26日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年6月18日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

就職支援する進路先は……

 中国政府も雇用確保に四苦八苦しているが、最も効果がある景気回復は新型コロナ対策とトレードオフの関係にある。コロナ対策を緩和すれば経済活動は回復するが、感染者は増加する。習近平総書記が「ゼロコロナ政策は動揺せず」と発破をかけている以上、一定数の感染者を許容するウィズコロナ的対策に転じることも難しい。インフラ投資や不動産投資奨励を進めるが、景気が一気に好転することは考えづらい。

 そうした中、よりミクロな雇用対策も行われている。中国共産党の下部団体にあたる、中国共産主義青年団(共青団)は6月、「大学生の雇用10万人サポート」との目標を打ち出した。

 仕事を見つけられずにいる「非名門大学の低所得世帯」を対象とし、各地域の共青団幹部が直々に企業を訪ね、職を探してくれるという。すでに4万1000人の職探しに成功しており、最終的には5万人を目標としている。

 10万人サポートと銘打っている以上、さらに5万人の職を探さなければならない。経済成長が遅れた西部地区で教員や行政職につく西部計画、農村の農業・教育・医療・救貧事業を支援する三支一扶プロジェクトのスタッフ、そして団地の公共サービス・スタッフなどで埋め合わせるという。

 西部計画や三支一扶プロジェクトは学生の多くが参加を嫌がってきたが、大学院進学時に奨学金をもらえるなどのアメをぶらさげることでどうにか参加者を確保してきた。団地スタッフは仕事をやめた中高年の仕事で、エリートたる大学卒業生の仕事ではないと見られてきた。

 共青団だけではなく、政府による雇用促進プロジェクトは数あるが、提示されるのはあまり人気のない進路が大半というわけだ。

エリート層にも波紋が

 大学生以上に「こんなはずじゃなかったのに」という落胆を感じているのは、大学院修了者かもしれない。大学定員の増加に伴い大学生の希少価値は失われてきたが、院卒ならばエリートとしてよりよい就職を得られると考えられてきた。

 しかし、その一方で大学院定員も年々増加が続いている。21年の定員は117万7000人。過去10年でほぼ倍増という急増を示している。特に20年には修士課程の定員が一気に18万9000人も引き上げられた。これも雇用対策の一環だが、不景気を回避したはずの20年修士入学組は、今年もっと厳しい雇用環境に直面するという予想外の事態に見舞われている。

 この不景気のなか、高学歴の院卒であっても就職希望の〝ランク〟を引き下げる動きが広がっているという。中国全土で話題となったのが浙江省麗水市遂昌件政府の職員公募だ。

 24人の採用者のうち23人が院卒だった。しかも上海交通大学や西安交通大学など名門校の出身者ばかり。「こんなすごい学歴の持ち主が県レベルの地方政府に就職するなんて!」という驚きが広がった。

 「最初は驚いたが、気持ちは理解できる」と話すのは、天津市在住の知人だ。修士課程1年生の息子の進路に日々頭を悩ませているという。来年、大学院を修了する予定だが、今年の就職浪人組も多く残ることから就職戦線は厳しいことは間違いないという。海外留学してさらに学歴を積み増すことも考えているが、「数年後に景気が好転しているかどうかも確信が持てない」のだとか。

 中国は23年に予定されていたサッカー・アジアカップの開催を返上したが、ゼロコロナ対策とそれに伴う消費低迷は少なくとも来年までは続く可能性が高い。米国の景気後退や中国不動産市場の低迷などのマイナス材料も多く、先行きは楽観視できないのも理解できる。

 数年にわたり就職難が続く就職氷河期世代の誕生が危惧されている。

 
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