2022年9月28日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年6月28日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

 無接種は誤解だと中国当局は否定したが、身分証番号と誕生日が流出するとワクチンの接種歴といったプライベートな情報まであっさりバレてしまうのが恐ろしい。日本にもワクチン接種歴を証明する電子証明書アプリがあるが、マイナンバーのICチップ認証が必要などセキュリティはしっかりしている。

 ルポライターの安田峰俊氏によると、習近平国家主席の身分証番号が流出した結果、習近平名義のゲームアカウントを勝手に作られたり、娘の携帯電話番号が判明しいたずら電話が殺到したりという騒ぎになったという。

 健康コードを含め、中国の身分証番号を利用したデジタルシステムは国民を管理する機能は強力だが、セキュリティについてはザルで、不正利用を抑止する発想がないようだ。

中国デジタル社会が見せる負の側面

 さて、筆者は本件をきわめて重要な問題として注目しているが、それは健康コードの目的外利用というだけではなく、発端となった取り付け騒ぎも「デジタル大国・中国」の表と裏がぎっしり詰まっているためだ。

 前述のとおり、取り付け騒ぎを起こしたのは河南省の禹州新民生村鎮銀行、上蔡恵民村鎮銀行、柘城黄淮村鎮銀行、開封新東方村鎮銀行、そして安徽省の固鎮新淮河村鎮銀行である。

 いずれも「村鎮銀行」というカテゴリである。農村部に設立され、農民や農村企業に金融サービスを提供することを目的としている。2007年に初となる村鎮銀行が開設されてから15年で1651行が設立された。

 農村に根ざした金融機関が必要という理想はうるわしいが、貧しい農村地域を地盤としている以上、預金を集めることも難しく、なかなか利益があげられない。そうした中、活用されてきたのがフィンテック・サービスだ。

 スマートフォンでQRコードを読み込んで決済ができるモバイル決済は中国の発明だが、単なる決済機能を超えて、さまざまな金融機能が連携している。株式投資や保険購入と並んで投資サービスとして注目を集めたのが「インターネット預金」だ。

 通常よりも高い金利で預金を受け付けている銀行をユーザーに紹介するサービスである。遠く離れた、田舎の金融機関にお金を預けようという人など普通はいないが、アプリを操作するだけで高い利率が享受できるとなれば話は別だ。株式投資などとは異なり、預金というノーリスクの手段であることも人気の理由となった。

 村鎮銀行など地方の弱小銀行は好条件を提示して、中国全土のユーザーを相手に預金獲得競争をくり広げた。利率だけではない。「靠档計息」と呼ばれる金融商品はいつでも中途解約できる定期預金だ。預け入れから6カ月で引き出せば6カ月定期の金利で、1年で引き出せば1年定期の金利で利息が得られる取り決めだった。つまり、普通預金と同じ条件で引き出せるのに、定期預金の金利が得られることになる。

 高利回りを誘い水に預金を集めて、金融機関が破綻する。中国では珍しい話ではない。19年にも内モンゴル自治区の包商銀行が金融危機に陥っているし、15年には江蘇省南京市でニセ銀行「農村経済協同組合」の破綻も起きた。認可を得ていない、ニセの金融機関が大量の預金を集めては逃げたというわけだ。

 この手の資金集めは従来、口コミやチラシといったアナログな手段に頼っていたわけだが、気づけばインターネットを活用した中国全土にまたがる金融詐欺事件へとアップグレードしている。

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