2022年9月28日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年6月28日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

「ゼロコロナ」政策の批判の的に

 「維穏圧倒一切」(治安維持はすべてに優先する)とはかの鄧小平が残した言葉だが、地方政府にとっては今なお最優先の政策目標となっている。経済成長など他の面で成果を残したとしても、治安維持に失敗すれば地方官僚の評価は地に落ちる。

 抗議デモや集会のような人が集まる騒ぎは中国では群体性事件と呼ばれるが、この発生数をいかに減らすかも地方官僚にとって治安維持の重要な指針となる。逆に一般市民にとっては政府に圧力をかける武器であり、「騒ぎを止めたければ問題を解決せよ」と地方政府に迫ることができる。

 この手の政府と市民の丁々発止のやりとりは中国ではよくある話で珍しいものではない。今回話題となったのは健康コードの濫用という新機軸があったからだ。

 鄭州市政府は「問題の銀行預金者が鄭州市の場所コードでチェックインした場合に赤コードを表示する」よう、条件を設定していた。これで「コロナに感染している可能性があるので……」という口実で追い返せると踏んだわけだが、抗議者同士が横の連絡をとりあっていたため、不正操作はすぐに明るみにでてしまった。

 健康コードで日々の活動を確認され、いつ何時にも外出自粛や隔離を申し渡されるかわからない。そうしたコロナ禍の生活が2年以上も続いている中国だが、過剰な規制ではないかと厳しいゼロコロナ対策を不満に思う声は高まりつつある。この状況で、感染対策のために仕方なく使っている健康コードが濫用されるとあれば、ゼロコロナ対策への支持は一気に崩壊しかねない。

 それだけに今回の事件は中国でも異例の注目を集めており、人民日報をはじめ、中国官製メディアも強く批判。「河南省新型コロナ疫病対策健康コード管理辨法」ではコロナ対策以外に健康コードを用いることは明確に禁止されていると、あくまで異例の犯罪だったと強調している。

セキュリティの脆弱性を露呈したもう一つの事件

 もっとも、今回の問題はより構造的な課題に根ざしているのではないか。

 第一に中国ではビッグデータの濫用やプライバシーの侵害について、民間企業の問題については取り締まりが強化されつつあるが、政府の行動を縛る法律や監視する機関がほぼ存在していないためだ。政府は何をやっても許され、よほどの大炎上にでもならないかぎり、問題視されることはない。

 第二に目的外利用を防止するためのセキュリティが、ほとんど意識されていない点にある。実はこの6月、健康コード関連でもう一つのニュースが起きた。感染症専門医として、新型コロナ対策のブレーンとして活躍している英雄、鐘南山(ジョン・ナンシャン)院士が新型コロナウイルスのワクチンを接種していないとの疑惑が浮上したのだ。国民にワクチン接種を呼びかけている第一人者が、実は中国国産ワクチンを接種していない。

 このスキャンダラスな噂が一気に広まったのは、もっともらしい証拠があったためだ。それが「ワクチン接種歴なし」と書かれた健康コードのスクリーンショット画像である。

 健康コードには老人・子どもサポートの機能がある。スマートフォンを持っていない、扱えない人のために、別人が代わりに健康コードを表示できるというものだ。対象者の身分証番号と誕生日さえわかれば、だれでも簡単にできる。そこで、流出した鐘院士の身分証番号を使ってワクチン接種履歴を検索したところ、上述の結果が出たという。

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