このように、黒田日銀は金利を引き上げた場合のリスクの蓋然性の方が大きいと判断した可能性が高い。
利上げで早まる財政破綻
現在、国家予算は新型コロナ対応もあって、2020年、21年と140兆円を超え膨張した。22年度当初予算は107.6兆円だが、自民党の茂木敏充幹事長は30兆円規模の補正予算を提言していることもあり、最終的には140兆円近くの予算規模と引き続き拡張的な予算となるだろう。
一方で、大規模な歳出を支えるのは国債の発行だ。新発債と借換債を含めて毎年200兆円を超える国債を発行しても、低金利で推移しているのは、先にも見た通り、日銀が事実上の財政ファイナスを行っているからだ。この結果、日銀が保有する国債からの受取利息は1兆1233億円である上、国税を加えると1兆2584億円を国庫納付金として政府に還流させている。
現状では、政府がさらに歳出規模を拡大させ、日銀が引き続き財政ファイナンスを行ったとしても、問題なさそう見える。しかし、金利を引き上げた場合、この好循環が断たれてしまうどころか、日銀のバランスシートが含み損のせいで棄損するのに加えて、政府の財政破綻を早めるリスクまで抱えてしまう。
黒田日銀はインフレ率を口実に金利政策の変更は時期尚早としているが、実はそもそも何が起きようとも金利の引き上げは困難なのである。内外金利差の拡大で円安になれば、「円安のデメリットももちろんあるが、輸出が伸びるメリットが上回る」と言ってみたり、インフレ率が2%を達成したら「コアインフレ率はまだ2%に到達していない」と言ってみたり、今後も金利引き上げの要求が高まったとしても、結局、あれこれ理由を付けてそれに応じることはないだろう。
なぜなら、日銀が安心して金利を引き上げられる環境が整うのは、政府債務の削減が進んだ時であり、そのためには短期的にはバラマキ的な財政運営からの脱却、中長期的には社会保障制度の抜本的な改革という2つの政府財政赤字の根源を退治することが必要だからだ。
政府も政治も高齢者の票を大切にするあまり、日本経済や若者の未来を大きなリスクに晒している点を反省すべきだろう。