ジョンズホプキンス大学SAIS教授のブランズが、ワシントン・ポスト紙に9月14日付で掲載された論説‘Ukraine May Become More Successful Than Biden Wants’で、バイデンが望む以上にウクライナが勝利する場合バイデンはゼレンスキーの要求を抑えるかもしれない、ウクライナが自由世界のために闘っていることはウクライナが獲得して然るべき全てを手に入れることを意味しないと指摘している。主要点は次の通り。
(1)米国とウクライナは敵を共有するが、ウクライナが勝利に近づけば近づく程、米国とウクライナの力や国益の相違が問題となりうる。
(2)ゼレンスキー政権は、クリミアを含め全てのウクライナ領土の解放、賠償、戦争犯罪者の訴追を目標とする。米国はこれらの目標の受け入れに躊躇しているかもしれない。
(3)米国は、ウクライナが戦線を拡大し過ぎるとコストの高い膠着状態に陥り、中国との衝突の危険が高まるなかで米国のリソース(資源)を費消することになることを懸念するかもしれない。プーチンが極端なエスカレーションに走り、戦術核の使用を考えている可能性さえある。敵を負かしたと見えても、戦争は急速に醜いことになり得る(朝鮮戦争での中国軍参戦の例)。
(4)バイデン政権は、ウクライナ戦争の目的が望ましいものかどうか、本当に不可欠なのかにつき検討しているに違いない。ウクライナが政治的に独立し、経済的に存立可能で国土防衛の力を持つこと、プーチンがこの侵略で得をしたと明白に言えないようにしておくことも不可欠だ。それは2月24日の線まで押し戻すことを意味する。しかしクリミアの奪還やプーチン等の訴追はそれには入らないかもしれない。ロシアとの和平取引でバイデンが賢明と考える線を越えてゼレンスキーが要求する場合それを抑えるかどうかが問題となる。
(5)米国の代理者が失望する事例は初めてではない(韓国の李承晩に朝鮮半島分断のままの終戦を受け入れさせた例、1990年ニカラグアのコントラに和平を受け入れさせた例)。
(6)今日ウクライナは自由世界のためにロシアと闘っている、しかし、それはウクライナが獲得して然るべき全てを手に入れることを必ずしも意味しない。
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この論説は、ウクライナによる東部攻勢が大きな成功を収めていた9月中旬に書かれたものである。戦争終結の微妙さ、難しさを議論する、極めて興味深く、深刻な議論だ。
戦争の終わり方はそういうものだろう。なおブランズは、ウクライナや台湾など大きな問題につきシャープな議論を提起している新進気鋭の学者(現実主義者)のようだ。昨年には中国ピーク論と台湾等の危険を指摘する本を出版、話題になっている。