2024年7月16日(火)

プーチンのロシア

2022年10月17日

電力施設に攻撃、国民生活に恐怖を

 軍事面でウクライナは、過去にない成功を収めつつある。ウクライナ軍は夏以降、占領地域の奪還に相次ぎ成功し、ロシア側は劣勢に立たされている。

 しかし、そのような成功はロシア軍の戦略に変化をもたらしつつある。10月8日には、ロシアが14年に併合したウクライナ南部クリミア半島とロシア本土を結ぶ橋が爆破されたが、それを機にロシア軍は首都キーウを含むウクライナ全土へのミサイル攻撃を行った。主な標的とされたのは、軍事上の前線ではなく、都市の住宅や電力施設などの民間インフラだった。

 非人道的行為として国際社会の激しい非難を浴びるなか、ロシアのプーチン大統領は14日、「主要目標の攻撃は終了した」と表明し、これ以上の大規模攻撃は必要ないとの姿勢を示した。しかし、そのような言葉を額面通り受け止めるのは困難だ。

 ウクライナ全土への攻撃は、橋の爆破をきっかけに行われたように見えるが、実際には厳冬期に入る前に電力施設などを攻撃することで暖房や電気などの欠乏を引き起こし、国民生活にさらなる恐怖と混乱をもたらすことが目的とみられている。プーチン大統領は同じ会見で、まだ破壊されていない対象物に対しては「徐々に打撃を与える」と述べるなど、民間インフラへのさらなる攻撃を示唆するともとれる発言をしていた。 

 現地メディアによれば、ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相は10月12日、ロシア軍がウクライナ全土へのミサイル攻撃を行った10月10日以降で、ウクライナ国内の3割の電力関連施設が攻撃を受けたと発言した。

 そのような状況を受け、ウクライナ政府は急遽、停電を避けるために午後5時~10時の間で電力消費を抑えるよう国民に要請。事態は厳しさを増しており、当局はキーウ市内において、最大40%の消費電力の削減を市民に要請したとの情報もある。このような事態が、ようやく回復していた企業活動に甚大な影響を及ぼすのは必至だ。

 今回のミサイル攻撃だけではない。ロシア軍は3月、欧州最大の原子力施設で、ウクライナの電力需要の約25%を担うとされる南部ザポロジエ原発を占領。プーチン大統領は10月、ザポロジエ原発の〝国有化〟を一方的に決定した。

 ウクライナ側への電力供給は止まっているものとみられる。さらに同原発の幹部がロシア軍に拉致されるなど、ロシアは同原発を完全に支配下に置いている。

 キーウ経済大の試算によれば、8月下旬時点で戦争によるウクライナの住居やインフラ関連への損失額は、総額1135億ドル(約16兆円)にのぼっていた。新たな民間インフラへの攻撃・占拠は、ようやく一部で立ち直りを見せていた民間企業の活動を阻害し、経済的な損失をもたらすことは避けられない。

ロシアによる経済支配の歴史

 直接的な破壊ではないものの、経済的な圧力を通じ、ウクライナを支配するロシアの手法は、これまでも一貫して行われてきた。今回も、ウクライナの厳しい冬を前に電力施設に攻撃を仕掛けるなど、ロシアはウクライナ経済の弱みを熟知している。

 ウクライナ経済とはどのような特色を持つのか。ウクライナはソ連時代、人口・経済でロシアに次ぐ規模を有していた。肥沃な国土で農業国として強みがあったほか、東部では鉄鋼業などの重工業が発展し、軍事産業でも高い存在感を示していた。

 ただソ連崩壊後は、主力産業だった重工業は製品の品質の低さから国際市場では競争力に劣り、エネルギー面でもロシアに依存せざるを得なかった。1990年代後半の同国の経済規模は、ソ連崩壊時から約6割も減少したとされる。2000年代は一定の回復を見たが、これも資源輸出国であったロシアの経済回復に引きずられてのことだった。


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