ウクライナは財政基盤の弱さや、産業の競争力のなさ、汚職が蔓延する非効率な経済システムを抱えるなか、ロシアに対して巨額の借金をしながらエネルギー資源を輸入し、それを安価に国民や鉄鋼産業に供給してきた。そのようなロシアへの〝借り〟は、ロシアが経済をテコに、ウクライナを政治的にもコントロールする隙を与えた。
象徴的な事例は、ウクライナ南部クリミア半島セバストポリの海軍基地の租借だ。ロシアは2010年、ウクライナに対する天然ガスの販売価格を割り引く代わりに同基地を42年まで租借する権利を得ており、黒海艦隊を駐留させていた。その基地は現在、ロシアによるウクライナ侵略の重要な拠点になっている。
13年に親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が決定した、欧州連合(EU)との連合協定調印の見送りも、ロシアからのガス輸入価格の割引交渉が背景にあったとされる。その後の反政権デモでヤヌコビッチ大統領が国外逃亡し、政権が交代したが、直後の14年3月には、ロシアがクリミア半島を併合した。
合わせて勃発した東部紛争ではウクライナの鉄鋼産業の基盤である同地域が占領され、今回の戦争でもマリウポリのアゾフスタリ製鉄所の破壊など、東部の工業インフラが徹底的な攻撃を受けている。
戦争長期化でかかる巨額の復興費用
今後、ウクライナ経済の復興にはどれぐらいの費用が必要なのか。
ウクライナのゼレンスキー大統領は10月12日、世界銀行が主催した同国の支援をめぐる国際会議にオンラインで出席し、来年の財政赤字を補うためだけで、380億ドル(約5兆6000億円)の支援が必要だと訴えた。
世銀やウクライナ政府などが今年9月に発表した見通しによれば、ウクライナの復興には総額3490億ドル(約51兆円)規模の資金が必要だとみられている。これは、20年時点のウクライナのGDPの2倍超にあたる規模だ。
ただ、復興に必要な総額も現時点での見通しに過ぎず、戦争が長引くほどウクライナの損害は増大し、国際社会の負担も巨額になる。厳冬期に向け、国民生活が一層厳しさを増すのは必至で、戦争の早期終結に向けた軍事支援の加速とともに、ウクライナ国民の生活を守るための非軍事面での国際的な支援の拡充も、極めて重要になっている。
ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
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