2023年1月30日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年10月24日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

 習近平の権力基盤が確立し、長期政権への道がほぼ間違いなくなったのではないか。そう内外に知らしめたのが18年の憲法改正だ。

 国家主席は2期10年までとの規定を撤廃したことが決め手となった。その後も、過去に毛沢東と鄧小平しかなしえていなかった歴史決議を決定するなど、習近平はその権力基盤の強化に邁進していく。

 15年時点でもかなり明白、18年時点にはすでに半ば皇帝然としていた習近平がさらに盤石、さらに強力になり続けての22年というわけだが、ここまでの権力強化を積み重ねすぎると、もはやオーバースペックというか、やりすぎなのではという疑惑が生じてくる。

 名作麻雀マンガ『天――天和通りの快男児』に「成功は生の輝きでなく、枷になる。いつの間にか成功そのものが人間を支配、乗っ取りにくるんだ」という明言があるが、今の習近平総書記はまさにこの言葉通りの状況に陥っているのではないか。

集権体制の確立には成功したものの

 中国共産党は、俗に成功した独裁政権の典型例と言われるが、その大きな要因はトップを定期的に交代させるルールと定年の慣例を確立したことにある。毛沢東の独裁への反省からトップに過剰な権力を持たせること、個人崇拝することの危険性をかんがみての規定だ。

 権力闘争もこのルールの枠組みの中で行われることで、クーデターを含めた突発的な政変を抑止する効果もあったとされる。また、トップは引退後の報復を恐れれば、さほどご無体なことはできないとも考えられてきた。

 今回の人事はまさに「成功した一党独裁政権」の土台を崩すものである。習近平の勝利であることには間違いないが、それが果たして中国の、そして習近平体制の安定につながるかについては疑問符がつく。

 積み上げすぎた成功がもたらすもう一つの不安は、首脳陣の能力だ。

 12年に始まった習近平政権は順調な出だしを切った。高官をもターゲットにした反汚職運動によって、習近平総書記は絶大な庶民人気を獲得した。この反汚職運動はたんなるポーズだけではない。中国現地の経営者に話を聞くと、「木っ端役人から賄賂を求められる機会が減った」など、一般市民の生活に近いレベルにまで反汚職運動の恩恵があったと明かしている。

 また、言論統制やネット検閲の強化、人権派弁護士やネットのオピニオンリーダーの弾圧といったネット世論統制は海外からの評判は悪いものの、社会不安や共産党批判を低減し、中国共産党内部からは高い評価を得るポイントである。ソーシャルメディアが独裁政権を打ち倒した、いわゆる「アラブの春」が始まったのは10年のこと。習近平政権発足当時はネットと社会不安に対する警戒心はきわめて高いものがあったが、完全に制圧したといっても過言ではない。

 新疆ウイグル自治区や香港についても、海外からの評判は最悪ながらも、中国共産党の視点では安定を取り戻したと評価されるであろう。経済においても、チャイナショックなどの課題はあったものの安定成長を実現し、またイノベーションの分野ではこの10年で大きく飛躍したことも間違いない。

 では花丸満点の評価でいいのかというと、そうではない。米中関係の悪化が続くなか、米国による制裁は中国の未来の成長をも脅かすレベルにまで強化されつつある。新型コロナウイルス流行に対するゼロコロナ対策は今年に入って破綻状態にあり、消費減速につながっている。また、長年の時限爆弾とされてきた不動産問題も過去20年でもっとも厳しい状況にある。

 習近平の10年、その最後の数年間に悪材料は集中している。今後の5年、10年を見通すと、ここに高齢化問題も加わってくる。中国の人口は今年、純減に転じることはほぼ確実視されている。一人っ子政策の緩和、撤廃を続けるも、コロナ禍はそれ以上の衝撃で出生率を引き下げており、足元の状況はきわめて厳しい。

 もし筆者が総書記だったらここですぱっと引退して、面倒は次の人に解決してもらうという逃げ道を考えたくなるほどだ。


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