2024年11月23日(土)

WEDGE REPORT

2022年10月29日

「持続可能」な方法は、ただ一つなのか?

 だが、対話の可能性はまだある。GM推進派・反対派、あるいは中立派、それぞれの声を聞いていると互いに「持続可能な農業」を目指している点では一致していることに気づく。

 「Well Fed」の上映会(東京会場)では、GMに反対する有機栽培の生産者と、GMを将来的に視野に入れる大規模農業の生産者による立場を越えたやりとりがあった。以下、意訳した台詞としてその一部を紹介する。

 生産者A 「私は東京で有機栽培を行っています。今日はGMについて勉強するために参加しました。正直、この映画を観たからと言って、私の考えは変わりません。日本でGMを栽培する必要性は感じないというのが、正直なところです」

 生産者B 「私も以前は有機JAS農法を行っていましたが、その経験があるからこそ、テクノロジーも適材適所、使いながら、農業の持続可能性を模索していく必要があると考えています。私はプロ農家として現場からファクトの発信にも取り組んでいますがGMの話題は、触れただけでも頭ごなしに否定され、冷静な対話ができない状況です」

 生産者A 「私は、研究は大いにやってほしいと思っていますよ。でも、実際に栽培するとなれば話は別。万が一、有機栽培の作物に混入すれば、商業的なダメージが大きいです。果たして、どこまでコントロールできるのか疑問は残ります」

 生産者B 「商品価値という意味では、GM食品という選択肢が増えることで、オーガニック食品のエッジも一層際立ち、互いに共存共栄できる可能性は十分にあると私は思います」


 国際的な政府間機関のコーデックス委員会は、有機農業とは「生物の多様性、生物的循環及び土壌の生物活性等、農業生態系の健全化を促進し強化する全体的な生産管理システムである」としている。

 日本においては有機農業推進法で、有機農業は「化学的に合成された肥料及び農薬をしないこと並びに遺伝子組み換えを利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」と定義されている。

 環境負荷の低減を目指し、農業生態系の健全化を図る、その方向性に異を唱える人はいなだろう。ただ、この定義を素直に読めば「GM」はオーガニックの対義語だと捉えられ、有機農業の目指すところに、反するものとして受け取れる。

 では「Well Fed」にも登場するBtナスのように、農薬の使用量を削減し、環境負荷の低減にも寄与するGM技術は、どうなるのか?(Btナスの詳細については前編で紹介)。

 どんな技術も、目的と使い方次第で善にも悪にもなる。それなのに農業の在り方を「有機農業」と「それ以外」に二分すれば、その2つで「善か悪か」を争う構図に陥りやすくなるだろう。その争いは本質的と言えるのだろうか。

独占インタビューに応じたカーステン氏(左)とヒッデ氏(右)

 カーステン氏とヒッデ氏は、日本での上映会を振り返り「立場が異なってもお互いに学ぼうとする姿勢がありました。それこそが、この映画を制作したねらいです」と手ごたえをにじませた。地球と人類の未来のために選ぼうとする手段が違う──。その前提を共有することが、対話の糸口になることを期待したい。

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