ロシアによるウクライナ侵略が起きると、ロシアを支援した国はごく少数であり、欧米諸国や、日本、台湾、韓国、シンガポール、後にモロッコなどが、ロシアによる侵略を非難し、ウクライナを支援した。しかし、ロシアを非難する国々とほぼ同数の国々が、この問題と距離をとり、中立の立場を示したのである。
中立の国々は、対ロシア制裁に協力せず、ロシアが生きながらえることに貢献してしまっている。同時に、これらの国々が、ロシアとウクライナの仲介を行い、停戦をもたらすきっかけになる可能性も指摘されている。
結果、かつては、貧しい途上国を示すだけの言葉だった「グローバル・サウス」という言葉の意味が変わってしまった。発言権を増し、欧米とロシアが争っているときに、中立の立場から、独自の影響力を示す国家群をさす言葉として使われるようになっている。
つまり、ロシアのウクライナ侵略は、「グローバル・サウス」との交渉の場として、G20の注目度を上げた。インドとしては、「グローバル・サウス」をリードする国として存在感を示したいのである。
高まる中国とのライバル関係
もしインドが「グローバル・サウス」をリードしたいのなら、そこには、大きなライバルがいる。中国だ。
「グローバル・サウス」各国で、中国は影響力を急速に増している。そして、インドにとって中国は、領土問題も含めた、軍事的脅威でもある。だから、インドのG20における対応は、明らかに中国を意識したものになっている。
インドが中国を意識していることは、いくつもみてとれる。まず、G20では、20カ国だけではなく、ゲスト国を招くことが通例になっている。
インドは、今回、バングラデシュ、モーリシャス、オマーン、シンガポール、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、オランダ、スペイン、ナイジェリアを呼ぶ計画だ。このうち、バングラデシュ、モーリシャス、オマーン、シンガポール、UAEについては、インド洋の沿岸国である。中国と争うインド洋地域において、インドの影響力を確保するため、これらの国々との連携を模索したものとみられる。
このような傾向は、G20にまつわる200以上とされるイベントにも見て取れる。インドが議長国になる直前の11月28日、インドの元外務次官が、G20各国の大使を引き連れて、インドのアンダマン・ニコバル諸島を訪問した。
このアンダマン・ニコバル諸島は、マラッカ海峡の出口に位置する戦略的重要地だ。中国の原油などは、中東から、このアンダマン・ニコバル諸島の近くを通ってマラッカ海峡に入り、中国へ運ばれる。もしインドが十分な軍事力を持ち、ここを封鎖すれば、中国は困るだろう。だから今、インドはこのアンダマン・ニコバル諸島で軍事展開を強化している最中だ。
インドがG20の大使たちを案内し、各国に状況を説明すれば、自然と、各国は、インドと中国がインド洋で展開するパワーゲームに気付くだろう。インドがインド洋の安全保障上、重要であることを示し、中国の影響力拡大に対抗しようとしているのである。