2024年3月4日(月)

ザ・ジャパニーズ3.0(昭和、平成、令和) ~今の日本人に必要なアップデート~

2022年12月26日

安全保障に対する思考と戦略

 国としては、防衛に関して無策というわけではないが、国民の理解がついてこない現実がある。その良い例は2015年に成立した平和安全法制、いわゆる安保法案だ。当初から憲法9条に反するとの声が続出し、当時の安倍首相が強行採決に踏み切ったために国会を取り巻く大規模なデモに発展した。当時テレビを見ていて、「子供を戦場に送らない」とヒステリックに叫ぶ主婦の集団を取材していたが、なぜこのような理解不足が生じるのか悲しい思いになった記憶がある。あなたの子供は、予備役としても戦争に行くことはない。しかし侵略が始まればあなたの目の前で殺される。ブチャの人々がそうであったように。

 侵略を意図する者には、領土への侵攻であれ、サイバー攻撃であれ、フェイクニュースなどによるマインドコントロールであれ、それを遂行する強い意志がある。大義を仕立て、あらゆる手段を講じてくる。知らない間に土地を買い占め、水源をおさえ、農作物の品種を盗むことも含めてである。ロシア、中国の指導者の振る舞いを見るに、国際社会の非難を一顧だにしない強い意志を感じる。恒久平和を誓い、平和憲法を維持することは、侵略者の意思に何ら影響を与えないことは明らかだ。なぜならばそれは念仏であって、戦略ではないからだ。念仏を唱えても戦争は決してわれわれを素通りしないのである。

 戦後の高度成長期に生まれた私は、『戦争を知らない子供たち』だ。これはフォークソンググループであるジローズが1971年に発表した反戦歌で、当時オリコン11位にランクされるヒットとなった。私たちの世代は、まさに歌詞にあるように「平和の歌を歌いながら」育てられ、その帰結として戦争を想定できない思考回路に陥った。恒久平和の誓いと憲法9条を念仏にしたのは私たち昭和世代だ。戦争を知らない子供たちとして育ってきて、このように地政学リスクが高まった現状において、次世代を丸腰でリスクに晒してしまっているという深い悔恨がある。

 日本および日本人が、物理的侵攻はもちろん、サイバーや心理面まで含めた恒久平和を実現する戦略を描けるようになるまでにはまだ時間がかかるだろう。しかし歩みを止めてはいけない。現実に対する正しい認識、言葉を尽くした議論、その上での明確なゴール設定と正しい努力。それを実践したサッカー日本代表がこの30年間でここまで変貌したように、安全保障に対する思考と戦略が広く国民の間で共有され、われわれの次世代が真の恒久平和を実現できることを望む。私は人生100年時代の折り返し地点を過ぎてしまったが、まだ時間はある。自らができることを見つけて発信していきたい。

 さて私事になるが、またシンガポールに赴くことになった。3度目の駐在であり、任期が終わるころには今の会社での定年を迎える。今のASEANは財閥のみではなく、スタートアップ企業の活躍も著しい活況溢れる経済環境だ。そんな地から日本人にプラスになるアップデートを提供できればと思う。

 1年間のご愛読ありがとうございました。

   
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