化石燃料価格の大きな高騰(図-6)を引き起こした大きな原因の一つは、先進国政府、企業、機関投資家、金融機関が一丸となって進めた脱炭素、なかでも脱石炭だった。ロシア以外の供給国への需要が増えても、価格が高騰しても、増産が行われないのは、炭鉱と関連インフラに投融資が行われていないからだ。
脱石炭を進めた先進国が高騰したエネルギーの購入を迫られるのは、自業自得に見える。先進国企業の中には安いエネルギーを求め、エネルギー大国米国へ移転する企業も出てくるだろう。
エネルギー問題が産業の空洞化を招く。それも自業自得だ。しかし、先進国の脱石炭政策は、途上国を大きく傷つけている。
へとへとになった途上国
高騰したエネルギー価格によりコロナ対策で傷ついた途上国の財政状況はさらに悪化している。電気料金の高騰は生活にも大きな影響を与える。加えて、高くなったLNG、石炭を購入できないため途上国で停電が発生している。
脱炭素を進める先進国が途上国での化石燃料と関連インフラへの投資を行わないので、老朽化する石炭火力発電設備、輸送の鉄道網の補修の資金もない途上国ではさらに停電が広がる。
石炭生産国南アフリカでは、老朽化した石炭火力の故障が続き、停電が頻発している。昨年10月には、5つの石炭火力発電所が同時に故障する事故さえあった。
世界銀行から援助はあるが、石炭火力を再エネに転換する資金援助だ。南アフリカ政府とEU米英独仏政府との間で85億ドル(1.1兆円)の投融資計画が合意されているが、脱炭素のための資金だ。誰も今の石炭火力と停電問題を助ける気持ちはないようだ。
先進国による脱炭素の影響を途上国が受けるのも、先進国が化石燃料を買い漁り途上国が停電に追い込まれるのも理不尽だ。脱炭素を進める欧州諸国、特に、石炭と天然ガスを買い漁り、さらに人権問題で非難していた国からも化石燃料を買うドイツに対し欧州各国は眉をひそめる。それにより、途上国はますます化石燃料を購入できなくなる。
「血まみれの石炭」を買う欧州
昨年のサッカーワールドカップ開催国カタールは、欧州諸国から人権問題を非難されていた。スタジアム建設に従事した外国人労働者が劣悪な作業関係で多数亡くなったことと、賃金が支払われなかったケースがあったとされたことがその原因だった。
ロシアの侵略開始直後、ドイツのハーベック経済・気候保護相はカタールに飛び、LNG出荷を要請した。カタールのエネルギー相は、「石油、天然ガスを掘る企業は悪魔のようだと非難していた国が、いまはもっと掘れだ」と皮肉たっぷりにインタビューに答えている。
9月のドイツ・ショルツ首相のカタール訪問後、11月に26年開始の15カ年長期契約が発表された。世論調査を見る限りドイツ国民の多数はカタールからのLNG購入を問題なしとしている。
欧州は石炭の購入でも同じようなことを行っている。コロンビアの炭鉱は先住民族を圧迫している上、環境問題を発生させていると、欧州諸国は非難している。「血まみれの石炭」との報道もあった。
アイルランド最大のエネルギー企業ESBは、16年に今後コロンビア炭を購入しないと発表した。ロシアのウクライナ侵略後ESBはコロンビアから石炭購入を再開したと、コロンビアのエネルギー相が発言し、ESBは釈明に追われた。
ドイツもコロンビア炭購入量の削減を図り、16年の購入量789万トンから21年は177万トンまで落ち込んでいた。ドイツ・ショルツ首相は、EUが8月10日からのロシア炭輸入禁止を発表する2日前の4月6日、当時のイバン・ドゥケ・コロンビア大統領に「個人的に」電話し、コロンビア炭の出荷増を要請したと報道された。
この電話は功を奏し、22年ドイツのコロンビア炭の購入量は前年同期比約4倍になった(図-7)。10月までの輸入量は452万トン。もっとも、購入価格も21年1月の60ユーロから、22年10月には340ユーロに上昇している。
人権侵害があろうとも環境汚染問題があろうともものともしない、なりふり構わない欧州諸国の姿は、エネルギーは国の生命線であり最重要課題であることを示しているようだが、二枚舌と非難されても仕方がない。