米国も人権よりガソリン
エネルギー調達と人権問題を引き替えたのは米国も同じだ。米国は19年にベネズエラに対する経済制裁を発動し、原油の輸入を制限した。しかし、ベネズエラからの原油、重質油がないと米国メキシコ湾岸の製油所は操業ができない。ベネズエラから重質油が輸入できなくなった製油所は、ロシアからの重質油の輸入に切り替えた。
米国メキシコ湾岸の精油所は、ベネズエラ、サウジアラビアなどからの重質油を利用する設計になっている。国内のシェールオイルは軽質油なので使用すると製油所の効率が大きく落ち込んでしまう。シェールオイルを輸出に回し、重質油を輸入しガソリンなどを精製しているのだ。
ロシアのウクライナ侵略後の昨年3月に、米国はロシア産化石燃料の禁輸を決めたが、その直後からベネズエラに石油権益を持つ石油メジャー・シェブロンを使い、製油所に必要なベネズエラ産原油の輸入を再開するとの観測が流れた。
昨年11月下旬、米国はベネズエラに対する経済制裁を緩和し、シェブロンの原油輸入を認めると発表した。南米の政治状況の変化が、制裁緩和の理由とも報道されているが、本当は必要な重質油を輸入するためだろう。米国も、やはり人権問題よりガソリンが重要なのだ。
欧州の轍を踏んではいけない
日本も欧州諸国に歩調を合わせ、30年温室効果ガス46%削減、50年脱炭素に向け突き進んでいる。機関投資家、金融機関も欧州を見習い脱炭素・脱石炭に一直線だ。
途上国を苦しめるエネルギー不足、価格上昇の状況を作り出した最大の戦犯は、世界の化石燃料の需要と供給リスクを考えずに、脱炭素、脱石炭を進めた先進国政府、機関投資家、金融機関ではないか。
EUとの比較では石炭火力への依存度が高く、発電の7割以上を火力に依存している日本が同じように脱炭素進め、エネルギー価格を引き上げる炭素価格まで欧州に倣って導入することを検討している。
立ち止まり、欧州と途上国の状況を良く見る時期だ。なにが、ここまで石炭価格を上昇させたのか。炭鉱経営から撤退したエネルギー企業、商社に加え、脱炭素の旗振りをしている金融機関、機関投資家もエネルギー価格上昇、途上国での停電を引き起こした責任は誰にあるのか考えるべき時だ。
化石燃料依存度が高い日本は、エネルギー価格の上昇を防ぐために十分な供給を得る状況をいつも作り出すべきだ。身勝手な欧州の脱炭素政策から学ぶべきことは多い。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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