2022年12月28日付ワシントン・ポスト紙は「ロシアのウクライナ侵攻は2022年に世界をどう変えたのか」との同紙コラムニストのジョージ・ウィルによる論説を掲載し、ウクライナ戦争の影響で、日独の防衛力強化など、力のバランスは結局ロシアと中国にとって不利になったと論じている。
2022年末の世界は年初と大きく変わった。侵攻時点でプーチンは、隣国のフィンランドとスウェーデンが素早く北大西洋条約機構(NATO)加盟を決定するとは予想できなかっただろう。
プーチンは、ロシアは強力な国家でウクライナは国家ではないことを示そうとしたが、結果は正反対で、ロシアは物質面以上に政治的に劣っていることが明らかになった。その権威主義的文化は停滞、腐敗、事大主義を蔓延させてきたからだ。
プーチン侵攻の他の予想外の影響では、ショルツ独首相は、プーチン侵攻の 3 日後、防衛費増額を表明した。日本は新国家安全保障戦略を発表し、憲法上の平和主義から再度一歩離れ、純粋に防衛的兵器を越えた防衛支出を拡大する。新たな「反撃」兵器は、1000マイル以上先の中国の標的に到達しうる米国製トマホーク巡航ミサイル数百発を含む。
もし日本がNATO水準の国内総生産(GDP)2%防衛支出を達成すれば、防衛費は世界第3位となる。中欧での出来事が国際秩序を揺るがした結果、中国はより脆弱で、おそらくより抑止可能になる。
2022年、「世界勢力の相関関係」は、ロシアにとっては大幅に不利に、10カ月前に「無制限の」対ロシア協力を表明した中国にとっても不利に変わった。
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2022年を総括するウィルの論説は、彼らしい格調高く巨視的な一品だ。ウクライナ戦争により、長年中立を保ってきたフィンランドとスウェーデンはNATO加盟を決断し、日本とドイツも、それ以前は想定できなかった防衛費増額に動いた。その結果、力のバランスは、ロシアにとっては相当不利に、間接的に影響を受けた中国にとっても不利に変わったという指摘は正しいし、前向きなものとして勇気づけられる。
あえて、いくつかの問いを提起しておこう。まず、ウクライナが払っている多大な犠牲は、そのために必要なものだったのだろうか。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟やドイツの防衛費増額については、恐らくそうだろう。
一方、日本にとってはどうか。ロシアのウクライナ侵攻なしでも、日本が安保3文書に示された方向性を打ち出せたかどうかについては、中国による挑戦の重大さとそれへの理解の高まりから言って、おそらく可能だったと思う。ただ、少なくとも、それに対する国内外の理解度と中国による反論の説得度に対しては、相当の影響があったと思われる。
次に、この巨視的な力のバランス変化に関して、防衛費増額はスタートであり、これを実際の抑止力強化に繋げるには、調達、訓練、連携強化等の今後の具体化が必須だ。
いつまでもウクライナ侵攻に「頼っている」わけにはいかない。粘り強い「外交」と戦略的コミュニケーションが不可欠で、弛まぬ努力抜きには力のバランスの変化を生かすことはできない。
なお、この機会に、2023年がどのような年になるかについて述べておきたい。