2024年11月22日(金)

経済の常識 VS 政策の非常識

2023年2月9日

所得制限なしも分別のあること

 多くの人が、あらゆる給付政策に所得制限を設けることに分別があり、設けないのは無思慮なバラマキだと思っているようだ。しかし、そもそも格差を広げないという所得再分配機能は、累進所得税で行うべきもので、別の目的の給付政策にも所得制限を付ければ、どれだけの所得再分配政策を行うべきかという議論を分かりにくくしてしまう。

 また、金持ちは少ないので、所得制限を付けても、節約できる児童手当予算はわずかである。図は、所得階級別に何人の人がいるかを示したものである。

 1000万円以上の人は給与所得者の4.9%しかいないので、1000万円以上の人に払わないで節約できるお金は4.9%でしかない。個人の所得を全体で管理してコンピューターで自動的に仕分けするシステムがないので、このぐらいのお金は自治体の所得チェックの費用でかなり消えてしまうのではないか。

 現在、児童手当に使っている予算は3.2兆円だから、所得制限をなくしても1600億円(3.2兆円×4.9%)しか増えない。これで小池知事の発信力、政治力を抑えられれば安いものだと自民党は思ったのだろう。

 また、1000万円から1500万円の所得の人は185万人いて、その総所得は21.9兆円である。ここから税金を取ればかなり取れるということで、給与所得控除の削減など、ステルス増税で取り立てられてきた。

 これより上に行くと人数が73万人と少なくなって、その所得総額は17.4兆円である。ここからでも取り立てることができるだろうが、すでに50~55%の税率(地方税を含む)で取っている。また、節税のしがいのある人たちでもあるので取り立てが難しい。つまり、児童手当の所得制限撤廃は、1000万~1500万円の所得階級いじめを減らそうということなので、これまでと次元の異なる政策である。

N分N乗方式はさらに異次元

 N分N乗となると、さらに異次元である。すでに指摘されているように、これは子どもがいることが前提だが、かなりの金持ち減税である。また、減税額は共働きよりも片働きの方が大きくなり、女性の社会進出を抑制しかねない。個人の所得から世帯所得で課税しなければならないから、日本の税制の根本的変革になるとも指摘されている(以上は、例えば「「N分N乗」与野党に急浮上 少子化対策へ減税、政府慎重」時事通信2023年2月6日など)。

 しかし、最後の個人所得か世帯所得かは本質的ではない。というのは、夫の所得を子どもの人数+夫1人で割って課税することもできるからだ。1500万円の所得の夫が2人の子どもの扶養者であれば1500万円を2(夫1+子ども0.5×2)で割ってその税額を2倍してもN分N乗である。ただし、金持ち減税であること、片働き世帯が得することは同じである。


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