N分N乗で、どのくらいの減税になるのだろうか。図の元データから1000万円以上の人の平均所得は1521万円である。大雑把な計算なので、これを1500万円としよう。片働き世帯で、これまで通りの所得税の制度であると、配偶者控除なしで子ども2人の扶養控除、基礎控除、給与所得控除だけを考えると、税額は252万円となる。
N分N乗で、子どもの扶養控除はなしで後は同じとすると、税金は133万円。N分N乗による減税額は119万円(252-133)万円となる。
一方、1000万円未満の人は5000万人いて、その平均所得は388万円である。片働き世帯とすると、その税金は、配偶者控除、子ども2人の扶養控除、基礎控除、給与所得控除を考えると7.6万円となる。ところが、ここでN分N乗にすると税額は13.3万円となる。
扶養控除を廃止したからで、扶養控除を存続させれば減税になる。実際には、増税にならないように調整するだろうから、所得の低い人たちの税はN分N乗にしても、変わらないと考えてよいだろう。
N分N乗の財政コストはいくらか
子どものいる高所得層には減税なので、全体で税収中立になるようにするためには、低所得層に増税しなければならないが、そんなことができるとは思えない。やるなら、低所得層の税金は変わらず、子どもを持つ高所得層だけの減税だ。それが全体ではいくらになるだろうか。
筆者は、すぐに数字を持ってきてくれる人が有能だと考えるのだが、政治家はうまく誤魔化す言い方を教えてくれる部下が有能だと思うようである。これでは、日本の統計の質は高まらない。数字で嘘をつくのは難しいか、いずれバレてしまうので、政治家の役人の能力評価の方法が変わって欲しいと心から思う。
政府がしてくれないので、これまでのデータによって、筆者がごく大雑把な試算をする。前述のように、1000万円以上の所得の人は258万人で、子どもが2人いる人の減税額は119万円である。
次は、統計的裏付けがないのだが、この258万人の3分の1の人、86万人に2人の子どもがいるとする。この86万人の人の税金が平均で119万円減少するなら、財政コストは119万円×86万人=1兆234億円、ざっと1兆円である。1000万円未満の層は増税にも減税にもさせない。1兆円は、たいした金額ではないような気もするが、たいした金額だという人もいるだろう。
金持ちからは税金を取っても良いというのが日本のシステムだったのだが、子どものいる金持ちには減税しようという訳だ。それでどれだけ子どもが生まれるか分からないが、所得課税のあり方としてかなり異次元の発想の転換であることは間違いない。
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