2024年5月5日(日)

お花畑の農業論にモノ申す

2023年2月13日

「水田の畑地化」という大きな勘違い

 「(2)輸入原材料の国産転換、海外依存の高い麦・大豆・飼料作物等の生産拡大等」では、安定的輸入と適切な備蓄を組み合わせながら、過度な海外依存からの脱却が指摘されている。具体策として、水田を畑地化し、麦・大豆の本作化の促進、輸入小麦に代わって、米粉の生産・利用の拡大支援などを挙げている。30年までの数値目標は小麦9%増、大豆16%増、飼料作物32%増、米粉2.8倍(面積21年比)だ。

 水田の畑地化については、「米をつくらさない」「畑から元には戻させない」という色彩が強く出ている気がする。これは、食料・農業・農村基本法の4つの基本理念の一つである「農業の多面的機能の発揮」に反するのではないのか。

 水田などが持つ洪水の防止機能は約3.5兆円と試算されたこともあり、関東平野の水田の貯水量は6億立方メートルという計算もある(関東農政局)。さらに、最近は、国土交通省、農林水産省共同で、異常気象への対処法として「田んぼダム」や「流域治水」を積極的に推進している。

 こうした方向と矛盾しないのか。やはり、理想は、水位コントロールを自在にできる「汎用水田化」であろう。麦作の振興にもつながってくる。

 麦・大豆の本作化であるが、まず、コメ、大豆、トウモロコシは表作の競合作物であり、麦は基本的には冬(裏)作物で競合しないことを理解することが肝心だ。表作同士では、「輪作」、裏作との組合せは「二毛作」として、作付・栽培体系なり生産目標の数字を計算しなければならないだろう。

 その点から見ても、小麦は基本計画の目標100万トンに接近している。大豆は、21年度の実績で目標比74%であるが、ここに輸入濃厚飼料の子実トウモロコシが参入してくるとどうなるかやや疑問がわく。子実用トウモロコシの生産面積の4分の3を占める北海道、宮城の実証試験では高い生産性を示しているが、そのまま全国に適用できるのかどうか。また、大豆の場合などは、そもそも油糧用とかエサ用の大豆の国産化は念頭にない。

 結論めいたことになるが、やはり、本命は、世界に冠たる「生産・環境装置」である水田を良好な状態に維持して最も適した作物であるコメをフルに生産、国内にも海外にも多様な用途に使っていく。そのようにして水田と地域社会の健全な維持・発展を図ることこそ最良の「安全保障」である。

さらりと語られた「適正な価格形成」

 「2 生産資材等の価格高騰等による影響の緩和」では、「(2)適正な価格形成と国民理解の醸成」が掲げられている。

 ただ、大綱では、「生産者・食品事業者・消費者等、国民各層の理解と支持の下、生産・流通コスト等を価格に反映しやすくするための環境の整備を図る」と、「適正な価格形成」の対策例として「情報発信」を挙げている。ここで『コストの価格転嫁』、『かつての生産者米価決定方式=生産費・所得補償方式の再登板期待』が見え隠れする。

 こうした政策の立ち返りは許されない。また、「理解と支持を得る」情報発信とは何なのか、具体的な対策が見えてこない。デフレマインド、「安いニッポン」が根付く中で適正な価格形成は簡単に成し遂げられるとは思えない。あやゆる手段が求められる。

 基本法見直しでのさらなる議論を待ちたい。

 大綱の中では、食料・農業・農村基本法について、23年度中(=2024年通常国会)の提出を目指し、基本法の検討結果を踏まえて、この大綱を見直す方針を示している。

 ここは、理念を宣言する基本法と対策実施法とに分けて検討してほしい。また、大綱の「他の主要施策」に掲げられていることがらも丁寧にレビューしてほしい。

 「変えなければならないこと、変えてはならないこと」を踏まえた議論である。

   
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