2024年4月25日(木)

World Energy Watch

2023年2月28日

 欧州の化石燃料の需給を反映し日本の輸入価格も下落したので、電気料金も今後多少下がることが期待できるが、米エネルギー省などは今後2年間での化石燃料価格の大きな下落はなく、エネルギー危機前の水準に戻る可能性は低いと予測している。大きな景気後退があれば下落するだろうが、あまり歓迎する状況とは言えない。

 では原発を利用すれば、発電コストはどの程度下がるのだろうか。モデルケースでの試算に基づく原発の発電コストは公表されているが、現在の発電コストについてのデータはない。一方、米国エネルギー省は火力発電と原子力発電のコストを毎年公表している(表-1)。

 米国の原発設備の償却はほとんど終わっているので、発電のコストも極めて低い。火力発電のコストも低いが、その背景には燃料の天然ガスと石炭を輸出可能なほど安価に生産可能な米国の事情がある。

 日本の既存設備の原子力発電のコストも、米国とそれほど大きく変わることはないと推測できる。再稼働に際し、防潮堤などの安全対策工事が行われたが、今後の発電量当たりにすれば1キロワット時(kWh)当たり1円から2円程度だ。核燃料に係る再処理と最終廃棄物処理の費用は1円以下と試算されている。

 一方、日本の火力発電のコストは燃料価格の違いから米国のコストを大きく上回ることになる。今の燃料価格を基にすれば、原子力発電のコストを1kWh当たり20円近く上回ると推測される。

 今後燃料価格が下落すれば、コスト差は縮小することも予想されるが、その差が短期間に数円まで縮まることはないだろう。設置変更許可済みで再稼働が予定されている7基の原発による電気料金引き下げ効果の試算は、表-2の通りだ。1kWh当たりにすれば、全国平均では約1円の引き下げ効果がある。

 今後審査が行われる18基すべてが再稼働すれば、その引き下げ効果は全国平均では1kWh当たり2円から3円に相当する。さらに、再稼働の効果は料金引き下げだけではなく安定供給への寄与にもある。

安定供給の強化につながる

 日本を始めとした主要国は、1973年の第一次オイルショック以降エネルギー供給源の多様化を進めてきた。石油から石炭、天然ガス、原子力への分散を進め過去50年間それなりにうまく行ったが、その結果、石油の中東に代わるエネルギー供給国ロシアが登場した。

 ロシアの戦争により、エネルギー輸出国米国、カナダ、豪州を除く先進国は、エネルギー自給率向上策の実行を迫られている。欧州諸国は、太陽光と洋上風力に加え原発の新設による自給率向上を打ち出した。同時に脱炭素も実現する構えだ。

 しかし、再生可能エネルギー(再エネ)にも原発導入にも時間が掛かる。加えて、再エネ導入には原材料の中国依存という安全保障上の問題も付きまとい、脱中国の再エネ設備導入にはさらに時間が必要になる。


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