2024年4月18日(木)

World Energy Watch

2023年2月28日

 脱原発を予定しているドイツは、水素製造用の再エネ設備が不足するため水素を輸入する計画だが、日本は原発の電気を利用すれば水素を製造可能だ。例えば、製鉄業が必要とする年間700万トンの水素製造には3000億kWhの電力が必要になる。原発にすれば40基程度の規模になる。

 つまり、脱炭素に必要な電気と水素製造を支えるのは原子力発電になる。将来新設も必要になる可能性があるが、市場が自由化されたため将来の収入の保障はなくなっている。大きな投資額を必要とする原発の建設を行うためには、建設の遅れ、費用の増大などのリスクをある程度カバーする制度が必要だ。

 電力市場の自由化で先行した英国ではリスクを取る事業者は出てこず、事業者のリスクを軽減する制度が導入された。日本も建て替え、新設のための制度を考えるべきだ。

 日本の脱炭素投資、150兆円超のGX投資の主体は民間企業だが(経済成長、給与増に寄与しない日本のGX投資  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp))、政府が先行投資する20兆円については、選択と集中を行い、電気料金軽減、供給安定化、脱炭素を実現する原子力発電の支援に力を入れるべきだろう。

 安全保障、日米同盟の観点からも支援が必要だ。

日米同盟強化のために

 ロシアのウクライナ侵略により、安全保障の重要性が浮かび上がり、フィンランド、スウェーデンは北大西洋条約機構(NATO)加盟を申請した。日本も防衛力の強化を迫られているが、米国との同盟関係が安全保障の基礎だ。

 米国との関係強化のためには、日本が米国に寄与できる技術を持つことが重要だ。原子力発電は日本企業が得意とする分野だ。西側世界で原子力発電の技術を作り上げたのは、日米企業だった。

 原子力発電技術は日本経済、脱炭素に貢献するだけではなく、安全保障上も重要だ。GXを進める政府は覚悟を持って支援すべきだ。

編集部からのお知らせ:本連載でも鋭く日本のエネルギー政策に切り込んでいる山本隆三氏が著書で、ロシアのウクライナ侵攻に関わるエネルギー問題など、わかりやすく解説しています。詳細はこちら
 
 
 『Wedge』2021年11月号で「脱炭素って安易に語るな」を特集しております。
 地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
 特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます。

   
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る