欧州諸国は脱炭素の旗を降ろさず、やっている感は出しているものの、足元では脱ロシアを図るため、脱炭素に逆行しロシア産パイプラインガスに代え石炭輸入量を増やしている。安定供給のためには石炭に依存するしかなく、石炭価格の高騰を招いた。石炭火力による発電比率が3割を超える日本も大きな影響を受けた。
日本は短期的には欧州より恵まれている。既に再稼働している10基に加え、関連するインフラを備えた再稼働を待つ原発が25基あるからだ。さらに自給率を高めるため設備の建て替えもやがて必要になるが、その時日本は技術力を維持しているだろうか。日本で設備の新設が止まった間に力を付けたのは韓国だ。
存在感を増す韓国
昨年5月にバイデン米大統領が訪韓した際の米韓共同声明には原子力発電に共同で取り組み、小型モジュール炉(SMR)の輸出に米韓が協力することが謳われた。韓国の後の訪問となった日本での日米共同声明にも原子力発電に関する事項が盛り込まれていたが、米韓共同声明との比較では具体性に欠けた。
今年1月の岸田首相訪米時の日米共同声明も原子力発電について触れたが、「原子力エネルギー協力を深化させたクリーン・エネルギー及びエネルギー安全保障に関し、日米両国の優位性を一層確保していく」と簡単に述べただけだ。
脱ロシア産エネルギーと自給率向上、脱炭素のため、欧州では新型軽水炉、SMRに関心を示す国が増加している。エネルギー危機前に中東欧諸国に自国製設備の売り込みを図っていたロシアと中国は相手にされなくなった。
そんな中で自国産石炭を燃料とする石炭火力に発電量の約7割を依存しているポーランドは6基の新型軽水炉建設を計画し、フランス製、韓国製、米ウエスティングハウス(WH)製を検討した結果WH製3基の導入を昨年10月に発表した。
その直後に、韓国政府は、2基から4基の韓国水力原子力社の新型軽水炉「APR1400」がポーランドに輸出されると発表した。実現すればアラブ首長国連邦(UAE)への輸出に次ぐ案件だが、欧州委員会の競争入札のルールを満たしていないとの指摘があり紆余曲折がありそうだ。
韓国の尹錫悦大統領は、1月のダボス会議でのスピーチの中で、エネルギー安全保障、脱炭素の観点から原子力発電の重要性に触れ、韓国が卓越した技術を原発に関し保有し、建設、操業を行うことができるとアピールした。
日本での建て替え、新設が止まっている間に、韓国は自国内での建設に加えUAEにおいてAPR1400型炉4基の建設を行い、既に3基、合計403万キロワットが運転を開始している。日本は海外での原発建設に貢献できる力があるのだろうか。
政府は原発支援に投資せよ
世界の主要国が脱炭素を目指す過程で、原子力発電は重要性を増している。脱炭素は、二酸化炭素(CO2)を排出しない電源による電気と水素により実現する。電気が使える分野は非炭素電源に、使えない分野は水素にということだ。
例えば、輸送分野では長距離トラック、外航船舶、航空機などは、水素あるいは合成燃料を利用し、乗用車、短距離のフェリーなどは電気に変わると考えられる。
全国に点在する高炉製鉄所、石油化学プラントなどは水素を利用することになる。今水素は、化石燃料から製造されるのが主体だ。天然ガスから製造すると水素1トン当たり約10トンのCO2が排出される。石炭を利用すれば、その約2倍の排出量になる。
CO2を排出しない水素製造方法は、非炭素電源を利用し水の電気分解を行うことだ。電気を送り需要地の近くで電気分解を行えば、水素の運搬費用も節約できる。