社会保障のスリム化こそ必要
「異次元の少子化対策」の失敗を避けるには、社会保障を負担面でも、給付面でも拡大させずに、つまり、少なくとも現状の範囲内に抑える必要がある。
OECD諸国で比較すると、高齢世代向け支出対名目国内総生産(GDP)比は日本9.4%、OECD平均7.7%、子育て世代向け支出対名目GDP比は日本1.7%、OECD平均2.1%となっている。
図3からは、日本の高齢世代向け支出はOECD平均で見て1.7ポイント上回り、日本の子育て支出は0.4ポイントOECD平均を下回っていることが分かる。したがって、高齢世代向け支出を削減し、子育て対策に回せば、現状の社会保障の大きさの範囲内で子育て施策に最大で9兆円捻出できる。「異次元の少子化対策」もしくは子育て予算の倍増は、新たな財源を措置しなくても十分実現可能なのだ。
また、子育て支出の内訳をみると、保育サービスなどの現物給付は0.1ポイントOECD平均を上回り、児童手当などの現金給付はOECD平均を0.5ポイント下回っている。したがって、子育て支出内の振り替えも考えるべきだ。
そもそも、社会保険料は主に子育て前・中の世代を含む現役世代によって担われている。社会保障制度の持続可能性が高まれば高齢世代も等しく恩恵を受けるのだから、高齢世代も負担を負うのが筋のはず 。さもなければ、ただでさえ世界でも深刻な日本の世代間の不公平性をいっそう拡大してしまうだろう。
亡国を防ぐためには
さらに、事態を深刻にさせるのは、負担が重くなればなるほど、海外へ脱出する国民が増えるという関係性の存在である。
関係性3:国民負担率が大きいほど、海外永住者が増える。
このように、「異次元の少子化対策」が失敗すれば日本の衰退はおろか亡国への流れは決定的になってしまうだろう。日本を衰退させないためにも、新たな負担ではなく社会保障給付の付け替えや効率化で財源を捻出し、子育て政策を充実すべきだ。
くれぐれも、「異次元の少子化対策」をこれまでの社会保障政策・制度改革の失敗を覆い隠すための方便とさせてはならない。
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