2024年11月22日(金)

World Energy Watch

2023年3月28日

 陸上風力については、南部、東部の3州を筆頭にかなりの州が新設に消極的とされ、許可手続きの遅れが指摘されている。今年1月から3月までに発行された建設許可は60万kWに留まっている。

 導入が計画通りに進むと大量の太陽光、風力発電設備が必要となるが、問題は設備そのもの、あるいは原材料が中国からの供給に依存していることだ。

 ECは中国に原材料を依存するリスクを早くから認識していた。11年に重要な原材料リストを発表している。20年にECは欧州原材料同盟を発足させ、官民連携により長期かつ安定的にリチウム、コバルトなどの重要な原材料を確保する方針を打ち出した。

 対象になる原材料の多くは、太陽光、風力、電気自動車(EV)などEUが進めるグリーンニューディール、脱炭素の実現に不可欠な設備の原材料だ。

 ロシアの戦争が安定供給の重要性を認識させたことから、ECは23年3月16日、欧州重要原材料法案を公表した(European Critical Raw Materials Act)。今後欧州議会と理事会で議論されるが、法案の30年までの目標は以下の通りだ。

・EUの年間消費量の最低10%を域内で生産
・最低40%を域内で加工
・最低15%を域内でリサイクル
・重要な原材料のどの加工段階においても、単一の第3国に65%以上依存しない

 明記されていないが、対象となる国は中国だ。目標実現のため採掘許認可プロセスの簡素化なども求められている。

 ECは同様の立場の国と共に重要原材料クラブを設立し協力することも謳っている。しかし、原材料の調達では協力関係が不可欠な米国は、バイアメリカン政策の強化を打ち出しEU諸国の脅威になっている。

バイアメリカンに走る米国

 米国は連邦調達規則を昨年改正し、政府調達において要求される金額ベースの国内調達基準を55%から60%に引き上げた。来年からは65%になり、29年以降には75%が要求される。脱中国産原材料にもつながる。

 昨年8月に成立したインフレ抑制法では、EV購入に対する7500ドルの税額控除を認める条件として、購入するEVが「米国での最終組み立て」と「重要鉱物とバッテリーの国内調達比率の基準」を満たすこととした。

 EUは米国との協議の結果、EU製EV部品の取り扱いを米国製と同じにすることで合意を得たが、米国の同盟国の製品の取り扱いについての詳細は未だ明らかではない。

 EU諸国の米国向け財の輸出額は22年5532億ドル(約72兆円)あり、EUは米国の保護主義的政策の影響を大きく受ける。中でもドイツの最大の輸出相手国は米国であり、その輸出額はコロナ禍での落ち込みを超え再度増加している(図-3)。

 ドイツは中国、米国に次ぐ世界3位の輸出大国であり、22年の輸出額1兆5757億ユーロ(約220兆円)は日本の輸出額98兆円の2倍を超えている。ドイツの産業界にとり米国をはじめとする輸出市場の維持は死活問題だ。

 米国の保護主義的な政策に加え、米国のエネルギー価格が相対的に安くなっていることもEU諸国にとっては大きな脅威になっている。欧州からエネルギー多消費型産業の流出を防ぐにはエネルギー価格の引き下げが必要なのだ。


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