2024年4月26日(金)

World Energy Watch

2023年3月28日

米国並みの産業用電気料金を目指すドイツ

 ロシアの戦争は化石燃料価格とEU諸国の電気料金の大きな上昇を引き起こした。ECは変動が激しい化石燃料価格の影響を緩和し安定的な電気料金を目的とした電力市場の改革案(Electricity Market Reform for consumers and annex)を3月14日に打ち出した。

 具体案のひとつとして、再エネと原発の導入支援に差額保障契約(CfD)の導入を各国に求めている。発電される電気の買取金額を決め、事業者の収入を保証する。市場価格と買取金額の差額を事業者あるいは国が支払う制度だ。

 今まで再エネには一方的に補助金が出されていたが、再エネの買取価格が市場価格を下回ることもあり得るとし、その場合の事業者の支払いを消費者に還元することも想定している。

 ECが電気料金の抑制策を打ち出しても、エネルギー自給国米国の電気料金との差は縮まらない。米国と欧州主要国の産業用電気料金の推移は図-4の通りだ。欧州の電気料金はさらに上昇しているので、差は開く一方だ。

 ドイツ政府は、145億ユーロ(2兆円)を投入し、今年1月から来年4月まで産業用、家庭用電気料金への補助を行う。家庭用電気料金の上限は、使用量の8割まで1kW時当たり40ユーロセント(56円)に抑制される。

 それでも産業用電気料金の引き下げが不十分と考えたハーベック経済・気候保護相は、ドイツの産業用電気料金を米国、中国並みのレベルに引き下げる特別料金を検討すると今月発言した。想定料金は1kW時当たり5から9ユーロセントと報じられた。それほど米国への産業の流出は脅威なのだ。

米国と欧州の狭間でどうする日本

 バイアメリカンを進める米国。それに対抗しつつ脱中国とエネルギー価格引き下げを画策する欧州。日本もエネルギー価格の引き下げと同時に脱中国に努める必要がある。

 当面の対策は原発の再稼働だが、中長期には脱中国も念頭においた設備、原材料導入も必要だ。原材料の脱中国が進まない中での再エネ設備の増設は新たなリスクを生む。日本は原発の新設まで検討しなければ、脱中国と競争力のあるエネルギー価格の実現は難しい環境にある。

少子化が進み国内市場が縮小する日本は、東南アジアも見据え市場の拡大を図ることになるが、エネルギー分野では欧米市場とアジア市場では目指す方向は同じ脱炭素としても時間軸には大きな差がある。

 脱炭素一直線の欧州は、再エネ、原子力、水素、EV、合成燃料と脱炭素のためのエネルギーを拡大し、原材料の脱中国を図っている。

 東南、南西アジア諸国は、脱石炭さえままならない状態で、液化天然ガス(LNG)使用の拡大に乗り出したところだ。欧米のように10年、15年単位でのEV化、合成燃料利用も現実的ではない。

 日本は、アジア市場の時間軸も念頭に置き脱炭素に取り組むことが重要だ。アジアの途上国への支援は、日本企業に大きな市場を提供することにもつながる。日本は、欧米と同じく脱中国を進めるとしても、欧米の脱炭素への道筋とは異なる地図を持つべきだ。

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