たとえば郊外にあり、43ヘクタールもの広大なエリアの顧村公園には、約110品種、約1万6000本の桜が植えられており、3月15日から約1ヵ月間、「上海桜花節」が開催されている。また、英国人建築家がデザインし、SNS映えする独特の建物として若者に人気のショッピングモール「天安千樹」も、近くを流れる蘇州河に映る桜が美しいと、急速に有名になった桜の名所だという。これらの名所に、今年は花見客を当て込んだ露店も多数並んでいて、「盛り上げ」に一役買っている。
夜桜の写真をSNSに載せていた友人は語る。「綿菓子やたこ焼きなどの露店が出るようになったので、それらを食べながらお花見をする人が、今年はとくに多いな、という印象です。コロナの制限もなくなったからでしょう。
上海はここ10年ほど、毎年夏になると、日本風の夏祭りイベントが開催され、浴衣を着て盆踊りをしたり、露店の綿あめを食べたりする人が増えたのですが、桜の季節も、露店で食べ物やお土産などを売ったりするようになりました。杭州や南京、青島など、他の都市でも、屋台が出たり、お花見イベントが開催されたりして、それらが定着し始めています。
以前は、夏祭りも、お花見も『日本風』という感じで、あくまでも『日本を真似たもの』でしかありませんでした。もちろん、中国はお花見の本場という感覚もなかった。どこかぎこちなかったし、『日本には到底及ばないけれど、楽しみたい』という感じでした。
しかし、今年のお花見の様子を見ているかぎり、大勢の人がとにかくお花見を楽しんでいて、お花見にかなり『慣れてきた』ように見えます。コロナ禍の前に日本でお花見を楽しんだ経験がある人が増え、だんだん、それが板につき、楽しみ方もわかってきたのだと思います」
この友人は以前、日本に住んだ経験があり、日中のお花見の様子を観察してきたため、とくにそう感じるという。
中国ならではのお花見
筆者も彼らが投稿するお花見の写真を見て、同じように感じていたが、もちろん、すべて同じではなく、日本とは異なる部分もある。
その1つ目は、中国では、漢服を着て写真撮影することが多いことだ。漢服とは中国の伝統的な衣装を現代風にアレンジしたもの。民族衣装ではないが、「中国風味」を演出できるもので、近年は若者の間で、コスプレとして楽しんでいる人が非常に多い。
日本では、わざわざ撮影のために着物を着てお花見に行くという人は少ないが、中国のお花見は「まず花より写真」なため、漢服を着て桜を眺める写真を撮ることが若者の間で流行っているのだ。
また、中国では、地面にシートを敷いてお花見をしたり、そこで飲食したりする人は少ないことだ。シートを敷いてお弁当を食べたりする人もいることはいるが、多数派ではなく、とにかく写真撮影に没頭する人が多い。飲食は軽食程度で、「桜ソフトクリーム」のようなものも中国でも売られるようになったが、日本のようにお花見といえば「お花見弁当とビール」という人は少ないのだ。