オーストラリアの先住民アボリジニは二級市民なのか
4月4日。マーフェルズ・ビーチで知り合った老婦人は祖父がマオリ人。引退する前はご主人と一緒にオーストラリアのメルボルンで仕事をしていたが、彼女が見聞したかぎりアボリジニはオーストラリア社会では“二級市民”(second citizen)扱いされていたと断言。
アボリジニはオーストラリア総人口の4%と少数民族である。ハリウッド映画『クロコダイル・ダンディー』ではアボリジニをユーモラスに描いていたが、現実は異なるらしい。彼女はNZでは政府も社会もマオリに対し公正公平なことを誇りに思うと総括した。
キャンプ場で暮らすマオリの移動労働者たち
4月6日。南島の北東部の葡萄畑が広がるセドンの小さなキャラバン・パーク(キャンプ場)。料金は安いが全体的にうらぶれた雰囲気。オーナー夫婦は親切なマオリ人。
停めてある自動車やキャビンカーはどれも古ぼけており、ゲストの大半はマオリ人で長期逗留している。オーナーによるとワイナリー等の季節労働や道路工事などで働いている人たちが多いと。早朝に仕事に出かけるらしく夜明け前に何台も車がゲートを出て行く。
3週間以上を前払いすると正規料金の半額以下(一日当たりNZ$10=850円)。短くても数週間、ほとんどが数カ月から半年滞在しているという。この田舎町のキャンプ場はマオリ人移動労働者の憩いの場らしい。
マオリ人の貧困問題は教育格差の負の連鎖が原因なのか
4月9日。南島北端の町ピクトンのキャンプ場のダイニングキッチン。クライストチャーチ在住の2組の白人系家族と夕食時一緒になった。彼らによるとマオリ人の多くが低所得層であるのは教育に原因があるという。クライストチャーチでもマオリ人が多く住む地域の公立学校は概して水準が低く、義務教育の高校も中退が多い。教育格差の負の連鎖との指摘。
NZでは高校までは義務教育ゆえ学費は無償であるが、低所得層では学資が必要な大学進学はハードルが高い。優秀なマオリの生徒には給付型の奨学金が支給されるが、まだまだ限られた一部の生徒であるという。
マオリ語は日常言語として21世紀を生き残れるのだろうか
4月8日。南島北部の町ブレナム近郊のスプリング・クリークのキャンプ場。散歩していたら老婦人と親しくなった。彼女の父親はマオリ人で母親は英国系。父親はマオリ語を話していたが彼女自身は家庭でも日常会話が英語だったので話せないと。
NZではマオリ語は公用語に指定されており道路標識、公的な案内などは英語・マオリ語で併記されているという。確かに道中で見かける道路標識は併記されていたことに気づいた。
老婦人によると現在でもマオリ語はマオリ人の家族内や友人どうしの間で話されており、マオリ人学校ではマオリ語で授業が行われている。さらには政府の支援で設立されたマオリ語TV局では全てのプログラムがマオリ語で放送され英語の字幕が付いているという。
少数民族の言語は人類史を俯瞰すると多数派の言語に置き換わり死語となってゆくのが逆らい難い潮流だ。アイルランドでは英語が支配的言語となり、アイルランド語を公用語として維持する行政コスト負担軽減のため非公用語とした。現在アイルランド語は死語になりつつある。果たしてNZ政府のマオリ語復活政策は成功するのだろうか。
公立小学校ではマオリ語は必修科目だが
4月9日。南島北端の町ピクトンのキャンプ場の受付の30代前半の女性はエキゾチックな容貌。祖母がマオリ人とのこと。彼女自身は簡単なマオリ語しか解せないと。
NZでは1980年代に公立小学校ではマオリ語が必修となり公立中高等学校では選択科目となったという。受付女性は小学校で週に数時間、マオリ語の初歩を学んだ。小学校で全生徒が初歩を学ぶが、中高でマオリ語を選択する生徒は少なくマオリ人生徒でも実用実益のためフランス語や日本語を選択する傾向にあるという。
他方で政府肝煎りのマオリ語TV放送はマオリ人へのマオリ語普及に効果を挙げていると評価。やはり実益というインセンティブが薄いマオリ語学習は定着が難しいのだろうか。
ピクトンの隣のネルソン在住の30代の白人系女性は小学校でマオリ語を習ったが簡単な単語や挨拶くらいしか覚えていないという。彼女の小学2年生の子供は週に2時間マオリ語の授業があるが親としては算数や英語の時間を増やしてほしいと本音を漏らした。