2024年7月22日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年6月21日

 一方、中国との関係の安定化に成功していないのは、バイデン・ドクトリンの間違いによるというよりは、唯一の戦略的競争相手である中国との間で、緊張関係がしばらく続かざるを得ないという現実を反映した不可避の結果と思われる。その意味では、今回の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)で、中国に対するG7としての対応を最低限調整すると共に、G7として重視する点をより明確に定義したのは、緊張関係を管理する上で前進であろう。

 何より、実現可能性がなく自らにとってマイナスでさえあり得るデカップリングという言葉を、内容を十分定義することなく不用意に使い続けるのではなく、われわれが目指すのはデリスキングであることを、「G7広島首脳コミュニケ」の前文で特出しして言及したのは象徴的だ。

 また、本文の中でも、中国に率直に関与し懸念を直接表明することの重要性を認識しつつ、「建設的かつ安定的な関係を構築する用意」を表明し、気候変動などの「グローバル課題と共通関心分野で中国と協力する必要」も指摘。更に、G7の政策方針は「中国を害することを目的としておらず、中国の経済的進歩及び発展を妨げようともしていない」ことを明言したのは良かった。要は、「中国が、国際的なルールに従って」振る舞えば一緒にやっていける、と言う形で、ボールを相手のコートに投げ入れたわけである。

オバマの「世界の警察官ではない」から10年

 しかし、この社説が触れていないより本質的な問題は、米国自身もはや戦後秩序におけるほど、世界をリードするつもりがないのではないか、ということである。オバマ大統領が「われわれは世界の警察官であるべきではない」と発言したのは2013年9月であり、それから既に10年近くが経つ。

 昨年5月の米調査会社ピュー・リサーチ・センターの世論調査によれば、世界への関与を減らすべきと考える米国人は51%、増やすのが米国のためになると考えるのは48%だ。50歳未満に限ると、消極派は56%に上がり、若ければ若いほど消極派が多い結果になっている。共和党支持者の間では消極派は65%にも及ぶ。

 このような状況に鑑みれば、米国との同盟関係を自国の安全保障の重要な要素としている日本や欧州のやるべきことは、米国に自信を持つように働きかけることもさることながら、米国と共に、あるいは米国を引っ張りながら、世界秩序の「調整」を進めて行くということだろう。

 その意味では、世界経済に占める比重がピーク時の70%弱から40%強に落ちたとはいえ、未だに相当の比重を持ち、同質性が高く突破力のあるG7や、日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」といった同志国の枠組みの重要性は今後益々高まると思われる。今回のG7広島サミットは、そのような「共同体制」の本格的始まりを記すものとして、歴史に記憶されるかもしれない。

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