2024年7月22日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年6月21日

 5月18日付の英エコノミスト誌は‘Joe Biden’s global vision is too timid and pessimistic’(バイデンの臆病で悲観的な世界ビジョン)と題する社説を掲げ、新たなバイデン・ドクトリンは臆病で悲観的に過ぎ、自由で開放的で予測可能な対応が成功の鍵だと論じている。要旨は以下の通り。

(Pool / プール/titoOnz/gettyimages)

 戦後米国は混乱から新国際秩序を構築し、平和を維持し、貧困を改善した成長の基礎を作ったが、今やその秩序は揺らいでいる。

 バイデン大統領は就任以来、米国の優越維持と紛争リスク低減の新戦略を練ってきた。最近サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)が詳細を説明したバイデン・ドクトリンのナラティブ(物語)は、中間層繁栄と防衛、気候変動の統合で、自由市場を否定し政府が強力な役割を果たすものだ。

 積極的産業政策の元、補助金で半導体やグリーンエネルギーへの民間投資を触発。輸出管理で産業を保護し軍事転用可能な技術の敵への移転を防止。同時に中国からのデカップリング(分断)ではなくデリスキング(リスク低減)へとレトリックを抑制し、気候変動、アフリカ債務、ウクライナでさえ共通項を模索する。

 背景には好循環は米国と世界を安全にするとの信念がある。国家介入と保護主義は産業を成長させ中間層を支援しポピュリズムを冷ます。海外で米国の権威を回復させ、対中関係は「戦略的成熟性」で管理し、中国抑止のため予防的に軍事支出を増やす。

 新ドクトリンは成功するのか? 戦後秩序に比べ新ドクトリンの処方箋は悲観的過ぎ、米国を弱体化させ得る。

 まず、経済。実は米国の経済力は落ちていない。中国の経済規模が米国を大きく超える可能性は低い。米国の力の源泉はルールに基づく世界経済の中での創造的破壊と市場開放維持だ。国家主導の内向き経済ビジョンは、生活水準と影響力低減につながり得る。

 対中関係安定は、正当な政策と米国第一主義によるルール変更の混同という第二の間違いにより成功していない。貿易合意もなく、中国の核兵器増強にも拘わらず核軍備管理の枠組みもない。

 最後の間違いは同盟関係に関するものだ。バイデンはウクライナを支援し北大西洋条約機構(NATO)とアジアの同盟を再活性化したが、予測不能な経済ナショナリズムと市場開放への消極姿勢で、米国の影響力は減っている。戦後秩序は米国の一貫性と予測可能性で支えられてきたが、2024年選挙後は混乱しうる。

 より楽観的で前向きな対応が米国自身のためであることを米国民が納得する必要がある。再活性化された世界秩序こそ中国主導の権威主義的秩序への最良の防衛だ。新ドクトリンは米国凋落というナラティブへの反証になっていない。米国が自信をもって世界と向き合えなければ、世界をリードするのは難しい。

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 上記は本質的な問題提起と言える。確かに、米国は、強い米国経済が最も強みを発揮しうる「自由貿易」にあえて背を向け、半導体法やインフレ抑制法などに代表される「保護貿易」や「予測不能な経済ナショナリズムと市場開放への消極姿勢」で、同盟網強化で達成した地位向上にも拘らず、新旧同盟国やアジアの新興経済国の信頼を失っている。


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