図表2は、筆者が市区町村選挙管理委員会事務局に対し、電子投票が広がりに欠くのはなぜか、と質問した回答結果である(河村和徳『電子投票と日本の選挙ガバナンス』慶應義塾大学出版会、2021年)。「機器等のトラブルに対する懸念」を挙げる選挙管理委員会事務局は圧倒的に多い。
電子投票が広がりに欠くのは、かつて電子投票を行った自治体の選挙が無効になったトラウマが選管事務局に残っており、それが、「行政はミスをしてはならない」という行政の無謬意識と相まって選挙のデジタル化に足を踏み出せないからなのである。
地方議会のデジタル化へ国は積極関与を
それぞれの自治体が挑戦し、グッド・プラクティスを見つけて共有することは社会の発展という視点で望ましいことである。ただ、民主主義社会は手続きが重視される社会であり、手続きに対する一定の信頼があることを前提とする。
ICTを活用するか否かはそれぞれの議会が判断すべきである。しかし、経済安全保障的な観点に加え、地方自治体がデジタル人材を確保することが難しい状況や情報システム導入に少なくないコストがかかることを考えると、地方議会のデジタル化の推進に対し国が一定の役割を果たすべきではないだろうか。
たとえば、電子投票の場合、技術的条件の設定などは総務省を中心に行われ、システムの適合確認の実施も行われている。地方議会のデジタル化でも、技術的な信頼を担保するため、技術仕様を定めたり、技術検証を実施したりと一定の役割を果たすべきだろう。
図表3は、前出の議会事務局調査において「地方議会のデジタル化を進めるにあたって重要となるものは何か」という質問の回答結果である。議員自身のICTリテラシーが重要と答えた者の比率が圧倒的に高いが、財源が重要と答えた者の比率も高い。
筆者は最近、地方議会のデジタル化について、講演する機会も増えたが、その終了後に参加者から「地方議会のデジタル化を進めようとしても、予算提案権を持つ首長(執行部)が首肯してくれない」と相談を受けることがしばしばある。財源が厳しいので議会の要請を門前払いしている可能性があるということだ。
地方財政が国に依存し、地方議会の予算や人材を執行部に依存する仕組みは、地方議会のデジタル化の足かせであることは間違いない。地方議会のデジタル化の推進に対して、国は予算措置をするといった財政的な支援を果たしていくべきだ。
また、地方自治体が議会や選挙といった民主主義を支える仕組みのデジタル化を進めるにあたり、地方自治体はどうしても海外からの干渉やハッキングの可能性などを考慮しない可能性がある。
米国では、選挙に関連するシステムは国土安全保障省により重要インフラとして指定を受けており、国土安全保障省は州の要請に応じて選挙システムのセキュリティに関する支援を行う仕組みとなっている。(湯淺墾道「アメリカにおける選挙セキュリティの観念」『ガバナンス研究』19号、2023年)日本でも、選挙民主主義の根幹を支えるシステムは重要なインフラであると認識する必要があるのではないか。「地方のデジタル化だから国は動かない」のではなく、地方自治は民主主義の学校であり、それを守るために国は主導的な立場を担うべきだろう。
あなたはご存じだろうか。自分の住む地方議会の議員の顔を、名前を、どんな仕事をしているのかを─。住民の関心は高まらず、投票率の低下や議員のなり手不足は年々深刻化している。地方議会とは一体、誰のために、何のためにあるのか。その意義を再考したい。