なお、この基本年金は、新たに創設される付加価値税を財源とする全国民共通の基本年金(一階部分)の上に、財源を社会保険料とする既存の国民年金、厚生年金、共済年金を上乗せ(二階部分)する仕組みであった。しかし、こうした改革に消極的とされた当時の厚生省が出した結論は、一階部分は全国民共通の基礎年金を設けるとされたものの、税財源を独自に手当てすることなく、新たに設ける年金特別会計の基礎年金勘定に対して、国民年金、厚生年金、共済年金の各制度から拠出金を出す仕組みに、換骨奪胎されてしまった。
85年に女性の年金権が確立されるまでは、厚生年金保険制度の被保険者たる夫の年金(報酬比例部分+定額部分+加給年金)に妻分も含まれるとして給付設計がなされていた。また、先にも述べた通り、当時の国民年金制度において、被扶養者である専業主婦は強制加入ではなく任意加入という形が取られていた。こうした仕組みのもとでは、国民年金制度に任意加入せず、また、厚生年金保険制度の被保険者たる夫と離婚した場合には、女性の年金権が保障されておらず、無年金となった。
そこで、85年度改正による基礎年金制度において第3号被保険者として女性の年金権が保障されることとなったが、第3号被保険者自身は保険料拠出を必要とせず基礎年金給付が受けられた。これがいわゆる第3号被保険者問題の発端といえる。
不公平感は世帯で見るか個人でみるかの問題
第3号被保険者の保険料負担の公平性の問題については、第3号被保険者を抱える片働き世帯と夫婦ともに第2号被保険者の共働き世帯との比較で論じられることが多い。年金制度の給付と負担を「世帯単位」でみるか、「個人単位」でみるかに関連する。
まず、「世帯単位」で見た場合、標準報酬が等しければ、保険料負担も給付も片働き世帯と共稼ぎ世帯では同額になり、公平性は保たれている。
次に、「個人単位」で見れば、夫婦共に第2号被保険者の共働き世帯では、夫婦各々で保険料を負担することで基礎年金の受給資格を得ているのに対し、片働き世帯では、片方の保険料負担で2人分の基礎年金を受給できるため、不公平となる。つまり、第3号被保険者分の拠出金は共働き世帯を含む第2号被保険者全体で負っているのだ。
これは次のような数値例を考えてみると分かりやすい。
ある年の基礎年金給付総額をX、同じ年の第1号被保険者数をN1、第2号被保険者数をN2、第3号被保険者数をN3とし、Z=X/(N1+N2+N3)とすると、第1号被保険者のグループ全体では、Z×N1を拠出し、第2号被保険者のグループ全体では、Z×(N2+N3)を拠出する。基礎年金をまかなうための費用をこのように分担することにより、第2号被保険者全体で、第3号被保険者分の保険料(Z×N3)を負担している。
したがって、いま、X=1000、N1=20、N2=50、N3=30とすると、Z=1000÷(20+50+30)=10となり、第2号被保険者の基礎年金への拠出額は10×(50+30)=800となるが、一人あたり負担額は800÷50=16となり、6だけ余計に負担することとなる。これが第2号被保険者の「損」となる。
こうした数値例に現実の値を適用すると、N1=662万7000人、N2=4008万3000人、N3=774万6000人、X=24兆2353億円なので、ひと月当たりZ=3万7087(=24万2353÷(6627+4万83+7746)÷12)円となる。一方、第2号被保険者の一人当たり月額の拠出金は3万7087×(4万83+7746)÷4万83=4万9875円と計算できる。
したがって、4万9875-3万7087=1万2788円だけ第2号被保険者の拠出金が多い。ただし、基礎年金には半分、消費税が投入されているので、1万2788÷2=6394円だけ、第2号被保険者の毎月の負担(保険料)が大きくなっていると言える。