2024年7月16日(火)

World Energy Watch

2023年8月9日

 軍事政権は現在、バズム大統領と関係が近い人物を標的に、政権与党「ニジェール民主社会主義党(PNDS)」の党首や石油相、鉱山相などを逮捕し、脱バズム政権化を進めている。また、国家警備隊司令官や内相も拘束し、ニジェール国内の対抗勢力の動きを封じている。

包囲網をかける西側諸国

 ニジェールでの軍事クーデターを受け、諸外国はニジェール支援の停止に着手した。フランスはニジェールへの開発援助および財政支援の停止を決定し、欧州連合(EU)も財政支援と安全保障協力を停止した。米国も人道支援と食料支援を除く、ニジェール向け支援の停止を発表した。

 ニジェール周辺諸国の大半も欧米に同調している。西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は、加盟国とニジェール間の全ての貿易・金融取引の停止や、クーデターに関与したニジェール軍高官らに対する金融制裁の発動を決定した。隣国ナイジェリアは、ニジェール向け電力供給(ニジェール電力消費の7割相当)の停止を発表した。

 さらに、ECOWASは7月30日の地域会合で、軍事政権がバズム大統領の復権に応じない場合、武力行使を含むあらゆる必要な措置をとることを確認し、ニジェールへの軍事介入の可能性を示唆した。

 ニジェール包囲網に対し、軍事政権を率いるチアニ将軍はバズム大統領の復職を求める国際社会からの圧力に屈することはないと述べ、対抗する構えだ。また、ニジェールと同じく軍事クーデターを通じて誕生したマリおよびブルキナファソの両政権もニジェールへの連帯を表明している。その結果、ニジェール情勢への対応をめぐり、西アフリカ諸国間で分裂が生じている。

ウラン産出国ニジェールの重要性

 政情不安に陥るニジェールは、数少ないウラン産出国である。1973年の第一次石油危機によって原子力エネルギーが脚光を浴び、ウラン価格が高騰する中、ニジェールでもウラン開発が進められた。世界原子力協会(WNA)によれば、ニジェールのウラン生産量は22年に2020トンを記録し、世界シェアで4%を占めた。

 フランスをはじめEU加盟国はニジェール産ウランの主要購入国であり、発電用燃料として輸入を進めた。欧州原子力共同体(Euratom)によれば、EUのウラン輸入量におけるニジェール産の割合は22年時に総輸入量の約25%にのぼり、カザフスタンに次いで第2位となった。

 欧州にとってニジェール産ウランの重要性として、ロシアが資源開発に関与していない点が挙げられる。現在、ニジェールのウラン権益を持つ国は主に、フランスやスペイン、中国、韓国である。

 一方のロシアは10年頃より、世界各地のウラン権益を囲い込んできた。たとえば、国営原子力企業「ロスアトム(ROSATOM)」の子会社が10 年、カナダ拠点のウラン採掘企業「ウラニウム・ワン(Uranium One)」や、タンザニアなどにウランの大鉱床を有す企業「マントラ・リソース(Mantra Resources)」を相次いで買収した。

 特に、ウラニウム・ワンは、世界最大のウラン産出国カザフスタンで「カザトムプロム (Kazatomprom)」との共同事業を通じて同国のウラン生産に関与している。加えて、カザフスタンは内陸国であるため、ウラン輸出時にロシアとの協力を必要とする場面がある点から、ロシアが欧州・カザフスタン間のウラン供給網を間接的に握っていると言える。

 そして、ロシアがとりわけウクライナ危機下でエネルギー供給を外交上のカードとして利用してきた点も踏まえると、欧州がウラン開発に直接関与し、ロシアを迂回してウランを調達できるニジェールは、ウラン供給国としての重要な役割を担っている。フランス原子力企業「オラノ(Orano)」は前身「アレヴァ(Areva)」時代よりニジェールで長年にわたり事業を展開し、今年5月にはニジェール北部のウラン鉱山での操業を40年まで延長する旨でニジェール政府と合意したばかりだ。


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