現在、ニジェールからのウラン供給が寸断されたという情報はなく、採掘活動も継続しているとみられる。一方、供給不安に起因する国際ウラン価格の上昇が予想される。
脱炭素化の流れの中、少量の燃料で安価に発電ができ、温室効果ガスの大半を占める二酸化炭素を排出しない原発の役割が注目され、ウラン需要が増加傾向にある。このため、ニジェール動乱は西アフリカ情勢にとどまらず、ウラン価格上昇を引き起こす国際的なエネルギー問題の様相を呈している。
ワグネルの進出の可能性は?
ニジェール情勢で注目されるもう1つの動向が、ワグネルの展開である。今年6月、ロシア国内でワグネル反乱が起きたものの、アフリカ駐留ワグネルが撤退する様子はなく、リビアやマリ、中央アフリカ共和国での活動を続けている。同社はマリや中央アフリカ共和国で軍事訓練の提供や鉱物資源採掘場の警備などを行いながら、親ロシア派政権の転覆の試みを監視している。
こうした状況下、軍事政権を率いるチアニ将軍も政治的権力を維持するため、ワグネルをニジェールに招き入れる可能性がある。実際、ワーシム・ナセル(ジャーナリスト、米研究機関「Soufan Center」上級研究員)によれば、チアニ将軍が議長を務めるCNSPの将校らが8月2日にマリを訪問し、ワグネル関係者と接触した際に、同社のニジェール展開を要請したとされる。
ECOWASの軍事介入が囁かれる中、ワグネルがニジェール軍事政権に助け舟を出すことは十分にあり得る。他方、その見返りとして、ニジェール駐留の仏軍および米軍の撤退だけでなく、ウラン鉱山の開発権付与を求めてくる可能性も否定できない。
ロシア政府はワグネル反乱以後もアフリカへ関与を弱めておらず、むしろ関係構築に向けて積極的に動いている。7月27日および28日に第2回ロシア・アフリカサミットをサンクトペテルブルクで主催し、首脳会談を通じて二国間関係の強化を図った(ただし、首脳の出席数は前回2019年の半分以下)。また、6カ国(中央アフリカ共和国、マリ、ブルキナファソ、ソマリア、ジンバブエ、エリトリア)対象に穀物の無償提供を表明し、食料不足への不安を取り除くことで、寄り添う姿勢をアピールしている。こうしたアフリカ関与の流れに乗じて、ロシア政府/ワグネルはニジェールでも影響力の拡大を目指していくだろう。
他方、留意すべき点は、ロシア頼みの姿勢を堅持する国々がロシアの政治的・軍事的後ろ盾を利用し、西側諸国により挑戦的な行動をとることである。ニジェール軍事政権や、同政権に肩入れするマリやブルキナファソの両政権は、強まる国際社会の風当たりに反発する形で、欧米権益に標的とした対抗措置に踏み切ることが懸念される。特に、ECOWASの軍事介入が実行される事態となれば、西アフリカ諸国だけでなく、ECOWASに連帯する国々にも報復がおよぶ危険性があり、その場合、西アフリカ全域が更に不安定化する恐れがあるだろう。