第三に、世界的な対立が深まっていることが背景にある。特に、米中対立の激化は、グローバルサウスにおける味方獲得合戦につながった。過去の戦略的競争を見ると、多くの同盟国を獲得した方が競争に勝っているから、これは重要な競争だ。
例えば、第1次世界大戦を見ると、勝利した側の構成国は32カ国、敗北した側は4カ国であった。第2次世界大戦では、勝利した側は54カ国、敗北した側は8カ国であった。米ソ冷戦では、勝利した側は54カ国、敗北した側は26カ国であった。つまり、それが戦争であろうと冷戦であろうと、勝敗において、より大きなグループを形成した側が有利であることを、この数字は示している。
米中対立ではどうだろうか。条約に基づく同盟国の数を見れば、米国側には53カ国の同盟国がいる。これは北大西洋条約機構(NATO)の31カ国、インド太平洋では、日本、韓国、フィリピン、タイ、豪州と、それに台湾を含めた数字である。インドのように、友好国ではあるものの、条約に調印した同盟国ではない国は、含まれていない。
一方、中国は、条約に調印した正式な同盟国は、北朝鮮だけだ。ロシアやパキスタン、ミャンマーなどの友好国は、同盟国ではない。
ここから考えると、なぜ中国が、ロシアなどとともに、BRICSなどで加盟国を積極的に増やそうとしているかわかる。味方が少ない中国の方が、危機感が強いのだろう。
実際、中露は、BRICSでは積極的に動き、G20では積極的には動かない。G20には中露の首脳が欠席する見込みだ。味方を増やすという観点からは、G7がいるG20の加盟国を増やしても意味がないのだろう。どちらにしても、グローバルサウスの国々を味方につけることは、対立に勝つ上で、カギになる部分といえる。
戸惑うグローバルサウス
ただ、グローバルサウスの側には動揺が見られる。グローバルサウスの国々からすると、まずは自国の経済成長で、早く先進国になりたい。米国か、中国か、ではなく、自国の利益になるなら両方とケースバイケースで付き合うことができれば、その方がいい。
今回BRICSの拡大で目立ったのは、インドネシアの姿勢である。インドネシアは、BRICS拡大の候補国として直前まで有力候補だった。そしてBRICS各国の方は、インドネシアの加盟に賛成したようである。
ところが、インドネシア自身が拒否して、参加は実現しなかった。米国が入っていないBRICSが中露主導の反米的な色彩を持つ組織になるならば、インドネシアとして一定の距離をとりたくなった可能性がある。
その結果、最近では、グローバルサウスの国々が、米中、米露といった対立する各国、両方を忌避する傾向が出ている。例えばシンガポールの研究機関の調査では、東南アジアの有識者の間で、米中の人気が落ち、その他の国々、日本やインドとの協力への関心が上がっている。