ただ、インド軍が国産品を重視し始めたのは、ここ数年の傾向だ。この戦闘機マルートも含め、これまで、インド軍は、国産の武器の採用を最小限に抑えてきた経緯がある。
マルートの場合、1971年の印パ戦争時、全35飛行隊の中で2個飛行隊にしか配備されていなかった。インド軍は常に実戦を経験し続けており、性能の劣る国産の武器を使えば、戦争に負けてしまうかもしれない、と、危機感を持ったものと思われる。
インドが新しく開発した国産戦闘機テジャズについても、博物館には模型の展示がある。インド空軍は、テジャズに関しても、以前は、全体の1~2割程度の配備しかしない方針だった。ただ、ロシアのウクライナ侵略によって、武器を国産化する重要性が指摘され、この方針が変わりつつある。マルートと違い、テジャズは、インド軍の中心的装備になっていくかもしれない。
発展図るインドの動向に注視を
この博物館が興味深いのは、博物館であるにもかかわらず、新しい展示があることだ。例えば、ドローンのコーナーがすでにつくられていた。さらには、製作中だったが、月面への有人着陸の展示まであった。
インドは2023年8月、月の南極に探査機を着陸させた。南極への着陸は、世界で初めてのことである。しかも、直前にロシアが失敗したばかりなので、その点でも成果が際立った。
ただ、有人着陸はしていないから、この展示物の製作は、少し早いような気がする。インドは発展しており、将来を楽観する雰囲気がある。それを反映したものだろう。
インド空軍の博物館をみると感じるのは、限られた予算しかないインドが、米国の残置物や、英国が見捨てた戦闘機、性能の劣る国産品を駆使して、多くの実戦を生き抜いてきたことである。その際は、世界の評価に左右されず、自らの評価に自信をもって、決断してきた。ナット戦闘機はその例だ。いわば、ソフト面で優れた国といえる。
一方で、国産技術に対する評価が低いことも事実である。マルート戦闘機への評価はその例だ。ハード面では実力が不足してきたのである。
しかし、インドは発展している。2007年のインド海軍戦略には、公文書なのに「明日は今日よりも良いだろう」という言葉が書いてある。こんな文言を公文書に書くのはインドらしい、と思ったのを覚えているが、このような楽観的な雰囲気は、インド空軍博物館にもみてとれる。だからこそ、有人月面着陸成功の展示品まで、すでに作成中なのである。
実際に、国産戦闘機テジャズや月面に着陸した探査機を含め、ハード面での成功が積み重なるにつれて、ソフトとハード両面で、実力を開花させるときが来るだろう。意外にもその日は、すぐかもしれない。