2024年5月14日(火)

Wedge2023年11月号特集(日本の教育が危ない)

2023年10月20日

日本で覚えた違和感
それは中国でも……

 私は今年、日本国際交流基金から招聘され、日本の教育現場を視察する機会を得た。

 日本に滞在した4カ月間、8地域20学校に訪問し、文部科学省の担当者や現場の教師など、数多くの人にインタビューした。教育者たちは素晴らしい活動を行っており、学びも多かった。

 一方で、電車に乗って東京都内を移動している最中や街を歩いている時、数多くの学習塾の広告が目にとまった。いわゆる「良い学校」に入学するために、夕方や週末に学習塾で学ぶ多くの子どもたちの姿も見た。

 こうした状況を見るにつけ、私は日本の教育に違和感を覚えた。

 しかし、最初に言っておきたいのは、私は日本の教育が「良くない」と懸念しているのではない。むしろ、アジアで一番の先進国である日本により大きな期待を抱いている。

 16年、私は中国のビルゲイツ財団(ビル&メリンダ・ゲイツ財団)の首席代表の職を引き受け、米国から中国に家族とともに帰国した。

 当時、私たち夫婦には3人の子どもがおり、一番上の子は6歳の就学年齢に達していた。私と夫は大胆かつ無謀にも、生徒33人、教師5人という小さな「一土学校」を北京に設立した。私がこの学校を始めたのは、米カリフォルニアのシリコンバレーから北京に戻り、中国の教育を観察した時、思うところがあったからである。21世紀における優れた教育については、既にコンセンサスがあると思う。それは、(教育者主体ではなく)学習者主体の教育が重要である、ということだ。

 しかし、当時の中国の主流の教育は、私たちが数十年前に経験した受験と何ら変わらないばかりか、テクノロジーが進化したことでさらに悪化していた。教師は生徒のうたた寝を監視するため、生徒の頭に電子ヘッドバンドを装着した。保護者が昼寝を監視する製品を開発した企業もあった。あまりにも荒唐無稽で、小説に出てくるような光景が広がっていたのである。

 世界が注目する良い教育とは何かを知るため、私は18年に3回、フィンランドを訪れた。1970年代に教育改革に着手したフィンランドは、「人」が最も重要な資源であるという認識から国家を再構築しようとしていた。

 改革の目標は「あなたの目の前にある学校を最高の学校にする」ことであり、教育格差を軽減し、自主的な思考、プロジェクトベースの学習、チームワークに重点を置く教育がなされていた。しかも、教師が優秀な若者の間で最も人気のある職業になっていた。

 こうした過去50年にわたるフィンランドの教育改革の成果は、世界の注目を集めている。特筆すべきことは、教育費は無償であること、また、同国の私立学校は全体のわずか2%未満であり、単に公立学校とは異なる一つの選択肢に過ぎないということだ。

 私は来日前、日本に関する知識はほとんどなかった。ただ、深刻な高齢化と少子化が進んでいて、比較的裕福な国ではあるものの、資源のない国であり、最大の資源が「人」であるということは理解していた。条件が似ている日本とフィンランドは比較しやすいはずだが、実際の日本の状況は中国に近いということが分かった。

 学習塾では毎週のように試験があり、点数によって席替えがあり、「子どもたちのため」とばかりに塾代の捻出に奔走する親たち──。これらにより、全国にネットワークを持つ学習塾は莫大な利益を得ている。


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