はじめ塾の合宿が行われる「市間寮」は、神奈川県山北町のJR御殿場線山北駅から徒歩約1時間、丹沢山中にひっそりと佇んでいる。
9月下旬の土曜日。小誌取材班は、小田急線新松田駅を降りてJR松田駅に乗り換える途中、異年齢の子どもたちの一団に出会った。合宿に参加するはじめ塾の塾生たちだ。
当日はあいにくの雨模様で、車で移動することになったが、「晴れた日なら、子どもたちは駅から市間寮まで歩いていきます。早い子なら、駆け足で40分ほどで、楽しそうに登っていきますよ」。こう話すのは、はじめ塾の三代目塾長である和田正宏さんだ。
市間寮は江戸時代に建てられ、解体寸前だったところを家主から借りることになった建物だ。母屋は築200年ほどで歴史を感じさせる。離れのほかに、自分たちで建てたログハウスもある。寮全体が子どもの「遊び場・秘密基地」であり「生活」を学ぶ場所でもある。食事の支度、薪での風呂焚きは全て子どもたちでやるのが原則だ。
はじめ塾では、春・夏・冬の合宿を始め、田植えや稲刈りなどさまざまな行事がある。取材班が訪れたこの日の合宿は1泊2日で、小学4年生から高校3年生までの男女約50人が参加していた。
市間寮では絶対に守らなければならない一つのルールがある。それは、仲良しグループをつくらず、全員と仲良くするということだ。正宏さんによると「仲良しグループが緊密であればあるほど、まわりからは入りにくくなり、他の人を差別することにつながるから」だという。参加者の中には、学校生活に馴染めず塞ぎがちな日々を送る子どももいる。ただ、異年齢の子どもたちが集まっているからこそ、親身になって悩みを聞いてあげたり、アドバイスしたりと、そこには、「頼り、頼られる」関係性がある。
「さまざまな関係の中から関係を学び、トータルな人間関係を学び合うことを重視しています」と、正宏さんは言う。まさにその意味で、市間寮は、「社会の縮図」そのものであり、それを「勘」が育つ時期に体験できることは子どもたちの「生きる力」を育む上で、何よりも重要なことだろう。
「市間寮には自由があり、本当に楽しい」「外部講師の講演などもあり、学校では聞けないことが聞けるのもはじめ塾の良いところです」
現在中学生のみずきちゃんとゆいちゃんは、屈託のない笑顔でこう話してくれた。取材中、子どもたちは実によく遊んでいた。チャンバラごっこをしたり、木工作業に没頭したり、歌を歌ったり、おしゃべりしたり、中には、足にまとわりついてくるヤマビルを恐れることなく、手で掴む子どももいた。
「今日は泊まっていかないの?」
取材中、子どもたちに幾度となく言われた言葉だ。はじめ塾の子どもたちは、大人であれ、子どもであれ、新たな「仲間」、新たな「出会い」を心待ちにしているのだろう。そんな気がした。