2024年5月19日(日)

Wedge2023年11月号特集(日本の教育が危ない)

2023年10月28日

 子どもたちに生きるための「三つのカン」を育てる神奈川県小田原の寄宿生活塾「はじめ塾」の合宿が行われる「市間寮」を訪問した。そこには「社会の縮図」があり、生きる力を養う教育が見て取れた。

 はじめ塾の合宿が行われる「市間寮」は、神奈川県山北町のJR御殿場線山北駅から徒歩約1時間、丹沢山中にひっそりと佇んでいる。

 9月下旬の土曜日。小誌取材班は、小田急線新松田駅を降りてJR松田駅に乗り換える途中、異年齢の子どもたちの一団に出会った。合宿に参加するはじめ塾の塾生たちだ。

 当日はあいにくの雨模様で、車で移動することになったが、「晴れた日なら、子どもたちは駅から市間寮まで歩いていきます。早い子なら、駆け足で40分ほどで、楽しそうに登っていきますよ」。こう話すのは、はじめ塾の三代目塾長である和田正宏さんだ。

 市間寮は江戸時代に建てられ、解体寸前だったところを家主から借りることになった建物だ。母屋は築200年ほどで歴史を感じさせる。離れのほかに、自分たちで建てたログハウスもある。寮全体が子どもの「遊び場・秘密基地」であり「生活」を学ぶ場所でもある。食事の支度、薪での風呂焚きは全て子どもたちでやるのが原則だ。

 はじめ塾では、春・夏・冬の合宿を始め、田植えや稲刈りなどさまざまな行事がある。取材班が訪れたこの日の合宿は1泊2日で、小学4年生から高校3年生までの男女約50人が参加していた。

 市間寮では絶対に守らなければならない一つのルールがある。それは、仲良しグループをつくらず、全員と仲良くするということだ。正宏さんによると「仲良しグループが緊密であればあるほど、まわりからは入りにくくなり、他の人を差別することにつながるから」だという。参加者の中には、学校生活に馴染めず塞ぎがちな日々を送る子どももいる。ただ、異年齢の子どもたちが集まっているからこそ、親身になって悩みを聞いてあげたり、アドバイスしたりと、そこには、「頼り、頼られる」関係性がある。

 「さまざまな関係の中から関係を学び、トータルな人間関係を学び合うことを重視しています」と、正宏さんは言う。まさにその意味で、市間寮は、「社会の縮図」そのものであり、それを「勘」が育つ時期に体験できることは子どもたちの「生きる力」を育む上で、何よりも重要なことだろう。

 「市間寮には自由があり、本当に楽しい」「外部講師の講演などもあり、学校では聞けないことが聞けるのもはじめ塾の良いところです」

 現在中学生のみずきちゃんとゆいちゃんは、屈託のない笑顔でこう話してくれた。取材中、子どもたちは実によく遊んでいた。チャンバラごっこをしたり、木工作業に没頭したり、歌を歌ったり、おしゃべりしたり、中には、足にまとわりついてくるヤマビルを恐れることなく、手で掴む子どももいた。

 「今日は泊まっていかないの?」

 取材中、子どもたちに幾度となく言われた言葉だ。はじめ塾の子どもたちは、大人であれ、子どもであれ、新たな「仲間」、新たな「出会い」を心待ちにしているのだろう。そんな気がした。

小誌取材班を温かく迎え、見送ってくれた子どもたち。別れが名残惜しかった(WEDGE)

   
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Wedge 2023年11月号より
日本の教育が危ない 子どもたちに「問い」を立てる力を
日本の教育が危ない 子どもたちに「問い」を立てる力を

明治国家の誕生以来、知識詰め込み型の画一的な教育が行われ、日本社会には〝正解主義〟が蔓延するようになった。時を経て、令和の日本は、数々の前例のない課題に直面し、従来の延長線上に「正解(アンサー)」が見出しにくく、「自らが『問い』を立て、解決する力(ソリューション)」が求められる時代になっている。一方、現代を生きる子どもたちの状況はどうか。学校教育は「質の低下」が取り沙汰され、子どもたちは外遊びよりも、塾通い、宿題に次ぐ宿題で、〝すき間〟時間がない。本当に、このままでいいのだろうか。複雑化する社会の中で日本の教育が向かうべき方向を提示する。


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