ハマスの突然の、余りに残虐な、大規模な攻撃へのイスラエル国民の憤怒は、理解に余りある。ハマスの行動は、パレスチナ問題の歴史的背景を考えても許されざる行動である。
しかし、イスラエルは、長期的視野を失わず、出来る限り自制することが重要である。なお、イスラエルの自衛権が安保理決議案の議論等で議論になっているが、同国が自衛の権利を有することは当然だ。昔はイスラエルの生存権が問題になっていたが、今やその議論を聞くことはなくなった。
バイデン政権は、イスラエルとサウジの関係改善交渉(アコード)を後押してきたが、賢明だったとは思えない。パレスチナ問題を置き去りにして、アコードの既成事実を積み上げるやり方は乱暴であり、地域の持続的安定にも貢献しない。
パレスチナの反発は容易に予見されたはずだ。ハマスの侵攻につき、バイデンもブリンケンも、ハマスはイスラエル・サウジ交渉を止めようとしたのであろうとの見方を述べている。
パレスチナ問題は、冷戦後パレスチナ側の優柔不断等もあり和平のチャンスを失い、時の経過とともに「パレスチナ側の土地」は益々狭くなっている。イスラエルとアラブの和解は、パレスチナ解決を含むものでなければならず、少なくともそれと並行して交渉することが不可欠である。
今回の事件を機に、パレスチナ問題を交渉の土台に戻すべきだ。そして、交渉の触媒を果たせるのは米国しかいない。
困難な〝着地点〟
米国は、今や中国、ウクライナに加え、ハマスという三つの正面に同時対応せねばならなくなった。今回のハマス侵攻にはイランやレバノンのヒズボラ、シリアも何らかの形で絡んでいるだろう。
中露は、ハマスの侵攻を非難していない。プーチンは米国に新たな正面が出来たことを歓迎しているだろう。中国も同様だ。
イスラエルのガラント国防相は10月20日、議会で、ガザへの軍事作戦の目的について三つの段階があると説明した。第一はハマスの軍事拠点を壊滅する段階、第二は残った抵抗勢力の拠点を排除する段階、第三は「新たな安全保障上の現実」をうち立てる段階であるとしている。
第三段階につき「ガザ地区での生活についてイスラエルは責任を負わなくなる」としているが、その具体的な意味は不明だ。ネタニヤフ首相は10月28日、作戦は第二段階に入ったと言っている。
しかし、ハマスの壊滅と言っても、地下トンネル(深いので空爆しても破壊できず、ハマス指導部は更に深い地下に居住している)が張り巡らされ、地下には司令部、弾薬庫や兵器製造所等があり、ハマスの壊滅は長期戦にならざるを得ないようだ。ヒズボラは北から越境攻撃を強めるだろうし、イラン等の関与も強まるだろう。
世界で反イスラエル抗議は拡大する。ハマス的な要素は軍事作戦によっても根絶できないだろう。ハマスは今回侵攻のために最低2年準備したというから、イスラエルからの報復への対応策は作成済みだろう。結局、イスラエルはガザの軍事占領または併合に進むのではないか。