通常、需要(買い手)が多ければ価格は上がるというのが市場経済の原則である。しかし、ここで注意しなければならないのが、ガソリンスタンドの費用構造である。ガソリンスタンドを設置するためには、単に道路沿いに土地があればよいというものではない。ガソリンスタンドの設置のためには、ガソリン貯蔵のための大きなタンクの他にも、消防法による基準を満たした施設を設置しなればならない(図6)。
このような施設を設置する場合に問題になることは、そのガソリンスタンドのガソリンの売上が10Lであろうと1000Lであろうと固定的な設備をそろえる必要があるということである。したがって、需要がある程度まとまって発生しないと、この固定設備のための費用が回収できないことになる。このため、ガソリン需要がまとまって得られる人口の多い地域の価格が安くなりがちといえる。
考慮される運搬コスト
次に考慮しなければならないことが、ガソリンの運搬コストである。日本は石油精製の場所は原則として海岸(しかも多くが太平洋側)に存在し、そこから最終需要地のガソリンスタンドまで商品を運搬する必要がある。
一般に、どのような商品でも1キロメートル運搬するための時間的なコストや燃料費は大きくは変わらないので、体積や重量当たりの販売価格が重要になる。精密機械のICチップや薬のような体積や重量当たりの販売価格が高い場合は、輸送費負担能力が高いと評される。逆に、かさばる割に最終的な1グラム(g)あたり、または1立法センチメートル(㎤)あたりの販売価格が小さい場合は、輸送費の負担能力が低く不利となる。
この意味において、石油精製施設からの距離が長い最終消費地は、販売価格に運搬コストがオンされる割合が高くなってしまう。図7を見ると、表1でガソリン価格の上位にランクされた県のうち、大分県を除く、長崎、長野、鹿児島、山形、高知などは製油所から一定の距離があることが分かる。逆に、価格の安い宮城、愛知、徳島などは製油所が域内に存在する。
供給側の競争原理
さらに、ここではモノの売買における競争原理を考慮に入れよう。ガソリンスタンドが販売するガソリンは、どこの会社の製品でも品質にほとんど差が存在しない。すなわち、消費者にとってはA社のガソリンでもB社のガソリンでも車が動けば特に問題はない。
このようにお互いに100%取って代わることができる商品を経済学では「完全代替財」という。この場合、消費者は品質に差がないのであるから当然1円でも安いガソリンスタンドで給油をしようとするであろう。
そうすると、地域に売り手が多数存在すれば、客を呼び込むための競争原理で販売価格は安くなる。上にあげた消防設備の固定費を回収するためにも、より多くのガソリンを販売するため、セールやキャンペーン、ポイント付与や特売日等の工夫をすることになる。