2024年11月23日(土)

都市vs地方 

2023年12月18日

 ある場所と比べて、最寄り駅までの距離が1%遠い場所では、地価が0.28%低く、都心までの距離が1%遠い場所では、地価が0.52%低く、水涯線までの距離が1%遠い場所では、地価が0.04%高くなっている。利便性に比べると影響は小さいものの、人々が(他の要因が同じであれば)水際の土地を低く評価していると言える。

 しかし、この結果は、あくまでも水際の土地が低く評価されていることを述べているにすぎず、それが水害への備えなのか、他の要因、例えば、水辺の環境が不快であるといった要因によるのかは、分からない。そこで、水害の危険性を示すハザードマップや水害の経験といった追加情報を利用して、水害の危険性への評価を定量化する研究が行われてきた。

水害の危険性でどれほど人が動くか

 実際、水際への警戒心は、何らかの水害が生じると強く意識されることが分かっている。著者と九州産業大学の芝啓太助教は、東日本大震災の津波の経験が津波被害を受けていない地域にも影響していることを実証した。

 この研究では、南海トラフ地震で津波被害を受けると予想される地域において、海抜の低い場所と沿岸から近い場所が東日本大震災後に地価が大きく下落したことを示した。東日本大震災の津波は西日本には大きな被害をもたらさなかったものの、西日本の人々も津波の被害を目の当たりにしており、津波の被害を受けやすい場所への評価が下がったと考えられる。

 水害の危険性がどのように人々に受け止められているかについての研究は海外でも数多く行われている。オランダのエラスムス大学ロッテルダム校のマーテン・ボスカー氏らは、オランダの洪水の危険性を示すハザードマップ情報を用いて、洪水の危険性が高い場所の住宅取引価格が低いことを示した。この結果は、ハザードマップの情報が人々に認知され、その行動に影響を与えていることを示している。

 ソウル大学のドンギュー・リー氏とチョソン大学のヒュンド・チェ氏は米国のアイオワ州で2009年に起きた洪水の影響を吟味し、浸水被害が予想されていた地域の中で、洪水が発生した土地は住宅取引価格が変化しなかったのに対し、洪水がなかった土地は住宅取引価格が上昇したことを示した。この結果は、ハザードマップの危険情報が十分に認知されていたが、実際の経験を通じて、認知が変更されたことを表している。


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