近年、世界のビジエスリーダーたちの間では、「マインドフルネス」により自分の内面を見つめ直すことが盛んに行われている。元々はスティーブ・ジョブズが日本の「禅」の思想に感銘を受け、取り入れたことが一つのキッカケと言われており、実は東洋人が自然と受け継いできたものなのだ。
「自己観照」
マインドフルネスの効果効用は、さまざまな角度から説明されるが、筆者としてはパナソニック創業者の松下幸之助の「自己観照(じこかんしょう)」と同等である、という点を強調したい。
「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助は、パナソニックをたった一代で築き上げ、1956年には「5年間で売り上げを4倍にする」という計画を、前倒してたった4年で実現している。このような偉業を達成できた理由の一つが、同氏が最重視した自己観照なのだ。
松下幸之助は、自己観照を以下のように説明している。
「自分で自分を、あたかも他人に接するような態度で外から冷静に観察してみる、ということです。いいかえると、自分の心をいったん自分の外へ出して、その出した心で自分自身を眺めてみるのです」(『人生心得帖』松下幸之助 PHP研究所 1984年)
つまり、本連載でも強調している「メタ認知」による内省を、先取りして実践していといえるわけだ。近年になってビジネスリーダーに普及したこの概念を、半世紀以上前から最重視して実践していた辺り、経営の神様と呼ばれる所以が感じられる。
同氏は毎日のように、自身の住まいに一定時間籠り、座禅を組むような形でこれに取り組んでいたとのことである。
「今日自分はあのように言ってしまったが、実際はこのような気持ちであったな」などと、自分を見つめ直し続けていたという。(詳しくは京都にある「松下資料館」にて、詳細な説明が成されている)
これらを現代風にいうと、マインドフルネスによって実現される「内省」「内観」とも言い換えられる。
進学校に通う高校生たちの、心の交流と成長を丁寧に描いた作品
それらを分かりやすく描いた作品が、先日アニメ化もされて話題となった『スキップとローファー』(高松美咲 、講談社)である。
進学校に通う高校生たちの、心の交流と成長を丁寧に描いた本作品であるが、まさに内省して、自身の理解を深めるシーンが多く描かれている。
例えば、2巻Scene11「チカチカの梅雨明け」では、主人公の美津未(みつみ)が、学校をサボった志摩聡介に対して、思わず叱ってしまった後の関係修復のプロセスが描かれる。
ぎこちない空気のまま、過ごすことになる2人。美津未はそこで、「相手のためを思って言ったはずだったけど、そもそも私は最初に何を思ったのか?」と、自分自身の内面に疑問を向け、「もっともらしいことを言ったけど本当は、志摩くんがいないと学校がつまらないんだ」と感じていたことに気づく。
この本当の気持ちを相手に伝えることで、関係修復が行われた2人。いわゆる「アイメッセージ(私を主語にして伝える)」というもので、客観的正当性でなく、「自分の気持ちはこうだ」という他人に否定されない自身の本音を伝えるため、相手に受け入れられることになるのだ。