2024年11月22日(金)

経済の常識 VS 政策の非常識

2024年1月9日

人手不足は本来あり得ないもの

 地域によって人材が確保できず医師不足になっているのは確かなようだが、であれば、不足な地域だけ医師の賃上げを行えばよいのではないか。本来、人手不足というものはあり得ないものだ。なぜなら、人手不足の業界であれば、賃金が上がり、企業がその賃金上昇を吸収できなければ、販売価格が上がる。販売価格が上がれば需要が減って、それ以上人手集める必要がなくなって人手不足は解消する。

 医療や介護でこのようなことが生じないのは、医療は保険料と税金で運営されており、サービス価格や医療介護従事者の賃金を自由に上げることができないからだ。ただし、18歳で成績の良い子たちが医学部へ進学したがるという状況は変わっていない。

 つまり、医者になりたがる人はいくらでもいる訳で、なぜ人出不足になるのか不思議な気もする。もちろん、なりたい人はいても訓練して医者にしなければならないのだから、訓練が間に合わないということなのかもしれない。あるいは、医学部の定員が少なすぎるのかもしれないが、定員を増やすことには医師も政府も反対のようだ。

 政府の考えでは、医師が増えれば患者を増やして医療費が高騰するからだ。この根拠として、古くから都道府県ごとに病床の多いところほど医療費が高くなるという分析がある(例えば、「厚生労働白書」2005年、167頁)。さらにより直接的に、診療所の医師数が増えると医療費が増えるという分析もある(「医師総数の増加と地域偏在の状況」2022年 11月13日)。医師も、同業者である医師を増やすのは反対のようであるし、今から医師を増やそうとしても最低6年間はかかる。

 厚生労働省は、医師不足対応として、医師の働き方改革をして、医師になる人を増やそうとしているようだが(「医師の働き方改革について」2021年8月13日、厚生労働省医政局医師等働き方改革推進室)、過酷な勤務を減らすというのであれば、医師の1人当たり労働時間が減ることになる。過酷な勤務を減らすのは当然だが、これでは、医師不足の解消にはならない。

解決には需給の調整しかない

 解決には供給を増やすか、需要を減らすしかない。需要を減らすのなら、例えば高齢者の医療負担を上げるなどの手段が考えられるが、これは医師会からも有力な選挙民である高齢者からも大ブーイングになるだろう。であれば、供給を増やすために医師周辺業務を医師以外でもできるようにすれば良いのではないか。

 実際、厚労省としても、不十分ながら手は打っている。放射線技師や臨床検査技師がさまざまな検査のために静脈注射をすること、緊急救命士が重症患者に実施可能な救命処置について、病院に搬送されるまでの間に加えて、緊急外来においても実施可能にすることが提案され、一部は実施されている。

 これらの範囲を拡大すること、さらに看護師業務を拡大することも考えられる。兵庫県立大学の山本あい子名誉教授他の研究によると、米国では(州によって異なるがカリフォルニア州の場合)、入退院の決定、死亡の判断・宣告・診断書の記入、静脈注射などは、専門看護師(修士課程で教育が行われる)が独自にできる行為となっている。


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