系統的に抽出した複数のRCTの結果を統合して統計解析する研究方法を「メタアナリシス」と呼び、現時点では、メタアナリシスのエビデンスレベルが最高だと考えられている。
一方で、少数の観察研究や症例報告、そしてエキスパートの意見などは、エビデンスレベルが「低い」と判断される。「今後この問題について新しい研究が行われると結果が大きく変化する可能性がある」ということである。
「親方が『かえしはこの比率が一番』と言っても鵜呑みにしちゃいけないってことですね(笑)」
「C.B.さん、蕎麦ツユのレシピとエビデンスレベルはちょっと話が違うと思うんだけどねー」
「でも、先生、美味い蕎麦に満足してもらうことと病気が治ることって、何か似てますよね、ほら気持ちが」
「なるほど」
C.B.さんが言ったことは、家庭医が大事にしている原理の一つを言い当てている。それは「家庭医は、医学・医療の主観的側面を重視する」ということだ。
長年にわたって(そして現在も)医学・医療は極めて客観的かつ実証主義的なアプローチで疾患や健康問題に取り組むことが主流で、人の感情への配慮や人間関係への洞察は置き去りにされてきた。この両方のアプローチをバランスよく両立させるのが家庭医のケアである。
根拠に基づいた医療とは何か
「根拠(エビデンス)に基づいた医療(Evidence Based Medicine; エビデンス・ベースト・メディスン)」は、「EBM(イー・ビー・エム)」と略して呼ばれることが多い。
家庭医が行うEBMは、基本的に次のステップで行われる。
① 患者の抱える問題をきちんと捉える<問題の定式化>
② その問題解決のためにできるだけ多くの役立ちそうな情報(エビデンスを含む)を探す<情報収集>
③ その情報の内容を科学的に検討して判断を加える<批判的吟味>
④ その結果を患者に説明して十分に話し合ってどうするかを決める<患者への適用>
⑤ それがうまく行ったかを振り返る<診療行為の評価>
患者の意向にも配慮するこのようなEBMの方法は、特に患者とその家族など当事者にとっては、当たり前のこととして歓迎されるものだと思う。しかし、EBMの初期の概念が登場した1970年代から本格的に提唱されて導入の動きが進む1990年代にかけて、EBMの是非について多くの論争が起こっている。