2024年12月3日(火)

近現代史ブックレビュー

2024年3月18日

 近現代史への関心は高く書物も多いが、首を傾げるものも少なくない。相当ひどいものが横行していると言っても過言ではない有様である。この連載「近現代史ブックレビュー」はこうした状況を打破するために始められた、近現代史の正確な理解を目指す読者のためのコラムである。

 昭和政治史についての映画といえば、1945(昭和20)年8月15日の終戦の日のクーデターを扱った『日本のいちばん長い日』と、二・二六事件クーデターを扱った『叛乱』とが双璧と言ってよいだろう。いずれも歴史の分岐点を扱い、緊迫した息詰まる場面に満ちた傑作であった。

 中でも『日本のいちばん長い日』は『シン・ゴジラ』のような後の映画に大きな影響を与えたという点でも映画史に残る作品である。では、これだけの映画を作った監督、岡本喜八というのはどういう人なのか。かつて辻政信について優れた評伝(『辻政信の真実』小学館)を書いた著者が、その軌跡を詳細に追ったのが本書である。

運も味方につけた岡本喜八

おかしゅうて、やがてかなしき
映画監督・岡本喜八と戦中派の肖像
(著)前田啓介 集英社 1485円(税込)

 岡本喜八は米子に生まれ、一旦東宝に入社後、豊橋陸軍予備士官学校に入学している。典型的な戦中派である。したがって著者の視点もその戦中派という点に焦点を当て成功している。特に青年期の日記の発見は大きい。その点で興味深いことは多いが、やはりここではその象徴ともいうべき『日本のいちばん長い日』を扱うことにしよう。

 この映画はまず『人間の条件』などで知られた小林正樹が監督を務める予定であったという。ところがプロデューサーの藤本真澄と小林が大げんかをしたため、クランクインの半年ほど前に岡本喜八に監督が回ってきたのである。非常にラッキーであった。

 この映画の興行成績は好調で、4億円を超える大ヒットとなった。この年(1967年度)の日本映画の興行収入記録の年間第1位は『黒部の太陽』で、それに次ぐ第2位の記録を獲得したのである。


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