2024年9月29日(日)

令和の日本再生へ 今こそ知りたい平成全史

2024年5月28日

 日本は、50年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」、すなわち、「脱炭素社会の実現」を目指すことを国際公約として掲げている。その実現には、火力発電や再生可能エネルギーを始め、やはり原発再稼働は欠かせない。

 しかし、国民の原発に対する視線は依然として厳しい。その大元が1F事故であることは論を俟たない。前出の唐木氏は言う。「リスクコミュニケーションの最後は『相手を信頼できるかどうか』であり、感情の問題になります。『安全』に『信頼』が重なって初めて、人は『安心』できる。東電がやるべき最大の対策は、これからも無事故・無違反を続けることです」。

処理水を希釈する「海水配管ヘッダ」。直径は約2.2メートル。約450トンの処理水を、約34万トンの海水で希釈する(1日あたり)。これにより、2023年度に放出した処理水のトリチウム濃度は、1リットルあたり約200〜300ベクレル程度にまで数値を低減できている

1F事故に何を学び
次世代に何をつなぐか

 日本の原発は、「絶対安全」の標榜という技術論としてはあり得ない隘路にはまり込んできた歴史がある。1Fの非常用電源が地下に設置されていたことはその最たる例であろう。だからといって、いつまでも過去を振り返るばかりでは、技術は進歩しない。ましてや原発再稼働が進まず、国家として火力依存を深めていけば、エネルギー安全保障上、重大な影響を与えることになるだろう。政治には国民が共有すべき判断材料を示し、冷静な国民的議論が行える環境整備が求められる。

 1Fの廃炉には30~40年かかるとされているが、現時点では「やってみなければわからないことが多い」ということも事実だ。それでも、困難を一つずつ乗り越え、本丸である「燃料デブリ取り出し」のための下準備をようやく整えられたのがこの13年間だったといえる。これから先も東電は「全社一丸」となって、誠実に、着実に、廃炉を進めていくほかない。同じ東電にいながら「あれは福島の問題」と考えるようなことがあってはならない。

 最後に髙原さんはこう言った。

 「『13年たってもまだこんな状況なのか』と言われることもあります。捉え方は人それぞれであり、致し方ないことですが、そのような方々に対しても、少しでも前に進んでいることを示し続けていきたいと思います。それがたとえ一歩ずつでも、私たちはしっかりと歩み続けます」

 3つの原子炉がメルトダウンを起こすという世界最悪レベルの事故は、平成の時代に起こった。そこから何を学び、次世代に何をつないでいくのか。1Fの姿は、そのことをわれわれに問いかけている。

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Wedge 2024年6月号より
平成全史
平成全史

「平成全史」特集後編では、事件、災害、雇用、教育など、主に社会問題について考える。「失われたX年」と、過去の栄光を取り戻そうとするのではなく、令和の時代にどのようなビジョンを描き、実行していくのか?それは、今を生きるわれわれ自身にかかっている。


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