中国政府は、内燃機関自動車で、日本、ドイツメーカと同じ技術レベルになるには時間が掛かると読み、脱炭素の時代に必要なEVに助成を集中したが、その目論見は成功したようだ。
米国の自動車専門誌が、中国製EV3車種のテストを行った結果を発表しているが、テスラのモデルYよりも5000ドル安く販売されている3万2000ドルのXpeng G6、あるいは3万ドル強のZeeker Xのインテリア、装備はテスラを上回り、走りも良いと評価している。
ジーリーの河北省張家口市の工場で生産されているボルボのEX30の評価は高く、販売は欧州でも好調だ。
輸出されている中国製EVは、安かろう、悪かろうのイメージから脱却し、価格競争力のある品質のよい車になっている。
誰が課税に困惑しているのか
中国政府はEUの課税に対し猛反発しているが、欧州でもドイツを筆頭に中国との関係悪化を懸念する声がでている。訪中していたドイツ・ハーベック副首相がEUと中国の交渉開始に注力した。
欧州自動車工業会をはじめ、ドイツメーカーも保護主義的な措置には必ずしも賛成ではないようだ。その大きな理由は、中国との間の大きな取引がダメージを受けることだ。
たとえば、ドイツBMWは、BMWix3を瀋陽市のブリリアンス(華晨汽車)の工場で生産しているので、EU向けは課税率引き上げの対象だ。ミニクーパーSEも中国で製造している。
フォルクスワーゲン・グループは、23年の販売台数936万台のうち、中国市場で360万台販売している。売り上げ3223億ユーロのうち、中国市場は501億ユーロだ。
米欧の課税を避けるため、ジーリー・ボルボは、黒竜江省大慶市で製造しているEX90の製造を米国でも開始した。26年からはEX30をベルギー工場で生産する予定とされている。BMWもミニの生産を英国に来年移転する計画とされる。一方、中国メーカーも北米、欧州での製造を検討することになるだろう。
保護貿易の動きは、自動車の世界をどう変えるのだろうか。
どうする日本
中国製の価格競争力のあるEVが市場から排除され、選択肢が狭まることを懸念する意見も欧米ではある。
かつて日本企業が得意とした家電もパソコンも携帯も、気がつけば、競争力がある中国製に変わった。
しかし、中国製自動車が日本市場で大きくシェアを獲得することは許容できない。自動車産業は、規模、雇用者数、裾野すべてが極めて大きいだけに維持することが必須だ。
加えて、安全保障の問題がある。中国は走行データから多くのことを分析できる。蓄電池をはじめ多くの原材料を中国に依存するリスクもある。
欧州と異なり、日本ではまだEV市場は小さいままだ。将来のEV市場の拡大時に中国製EVの進出をどう迎え撃つのか。全方位で技術開発を進める日本メーカーもそろそろ新しい電池を含め、中国に対抗する競争力のある商品の準備が必要になってきた。
政府も2050年脱炭素をもう少し楽観的に考え、EVと水素以外の選択肢の余地も残し、自動車産業を後押しする姿勢が必要ではないか。脱炭素製品での中国との競争が厳しいことは太陽光パネルで学んだはずだ。