ここ数年関東地区で供給力不足が顕在化し、節電要請が行われるようになったが、2016年の電力市場自由化以降の現象だ。市場に任せれば、やがて設備が不足し停電するのだ。
自由化市場では将来の電気料金の見通しが難しく、発電所の新設が大きく減るので、老朽化する設備を建て替えるあるいは新設するための支援制度が必要になる。
発電設備を新設するには制度が必要なのだが、全国紙の一面を飾った記事は、英国のRABモデル導入の検討を「国の支援がなければ原発をつくれないということは、市場経済のもとではなり立たない事業」とし「料金を引き上げる可能性が高い」と主張する。
国の支援を必要としているわけではなく、制度がなければ原発に限らず大規模な発電設備はつくれない。クルーグマン教授が指摘したように、発電事業は市場経済に合わないのだ。記事は電力市場の理解が不足しているように思える。
なぜ制度が必要なのか
企業は、投資の継続により事業を維持する。投資対象は製造設備、商品、不動産などさまざまだ。投資額に対し適切な収益が必要だが、さまざまな理由により収益は変動する。
たとえば、予定通り製品が売れないかもしれない、競争が厳しく単価が下がるかもしれない。
企業は投資前の収益計算時に、売れ行き、価格など変動する要素を考慮した感度分析と呼ばれる手法で収益率の見通しをはじき意思決定する。
発電設備建設の投資では、将来の価格の見通しが分からない上に、設備の利用率が極端に低下する可能性がある。さまざまな発電方式の将来のコストは不透明なので、投資する設備の競争力が見通せないからだ。
自由化された電力市場では制度がなければ、誰も設備を新設しない。一方、自由化の目的は、競争の発生により料金が下がるとの期待だ。
しかし、儲かるかどうか分からない設備に投資する事業者は登場せず、発電設備の競争は起きず、小売り事業だけの競争になる。それで料金が下がることはないし、安定供給が実現することもない。
自由化された市場でも増える発電設備が唯一ある。太陽光、風力などの再エネ設備だ。
12年に導入された固定価格買取制度(FIT)に基づき発電した電気を買い取ってもらえるから、確実に収益が得られる。
原発の制度が自由化に逆行すると主張する記事は、再エネ支援制度には言及していないが、既に買取に使った電気料金は約30兆円だ。記事の主旨からするとFITこそ自由化に反する制度となる。