では日本メーカーに代わりIFAの花形となったメーカーはどこか。韓国のサムスン電子やLG電子は引き続き高い存在感を示していたが、最も躍進していたのは中国のメーカーだ。かつてソニーやパナソニックがブースを設けていた会場中央には華為技術(ファーウェイ)から独立した携帯端末メーカーのHonor(オナー)が陣取り、東芝やエプソンのブースがあった会場西のほうにはテレビなどに強い中国家電メーカーのTCL科技集団や海信集団(ハイセンス)が巨大なブースを展示していた。
トルコのベステルが
日本ブランドを代わりに展開
さらにもうひとつ注目されるのが会場東に巨大ブースを構えるトルコのベステルだ。もともとドイツや日本の家電メーカーの受託製造を担っていたOEMメーカーだったが、自社ブランドの「Vestel」で商品展開するようになり、さらにはドイツや日本、韓国などのメーカーからブランド使用権を取得し、様々なブランドで製品を販売している。ベステルのブースを除くと、「TOSHIBA」や「SHARP」、韓国の「DAEWOO(大宇)」、ドイツの老舗メーカー「Telefunken(テレフンケン)」といったブランドの商品が隣り合わせで並んでおり、下請けメーカーが発注元のブランドを取り込んでしまった格好だ。
英調査会社インフォーマテックのハイテク調査部門「OMDIA(オムディア)」の調査部長を務めるポール・グレイ氏は長年、IFAを取材してきたというが、100年の欧州家電の歴史をこう分析する。「最初は日本メーカーがドイツのメーカーを追い落とし、次はその日本メーカーを韓国メーカーが追い上げ、今度はトルコや中国のメーカーが主役に立とうとしている。その意味ではドイツの家電メーカーが消えていったように、今度は日本のメーカーが消えていく、残念ながらそういった輪廻なのかもしれない」という。
中国やトルコなど新興メーカーの台頭を受け、ブランド使用権を最も分散してしまったのが経営危機に瀕した東芝やシャープだ。東芝は欧州でのテレビのブランド使用権をベステルに供与しただけでなく、テレビ事業自体を中国のハイセンスに売却し、白物家電は中国の美的集団(Midea)に譲渡してしまった。会場を歩くとあちこちに「TOSHIBA」ブランドの商品コーナーがバラバラにあるのは何とも異様な感じだった。
シャープは会社自体を台湾の鴻海精密工業に売却してしまったが、それ以前の経営が苦しい時期に白物家電のブランドはベステルに供与し、北米のテレビ事業はハイセンスに売却、欧州のテレビ事業はスロバキアの新興メーカー、UMCに売却してしまった。ところが鴻海の傘下に入ったことでUMCを会社ごと買い戻すことができた。IFAに設けた商談ブースがクローズドだったのは、そういった事情からテレビなど一部の商品ラインナップしかなかったということも理由だったという。現地のオーディオビジュアル(AV)事業を任されている現地法人の金森恒明副社長は「今後はできれば手放したブランド使用権をすべて取り戻し、以前のような幅広い商品展開ができるようにしたい」と語る。